史料 日立鉱山における宮田川汚水対策

1960年代、所得倍増計画、新産業都市の指定によって産業の発展が著しく進む一方、水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそくなどの生産活動による被害が広がり、大きな社会問題となった。それに対し、不十分ながらも1967年8月公害対策基本法が公布された。当時、日立市入四間町や十王町高原の水田でのカドミウム汚染米の問題も大きく取りあげられていた。

本記事は、そのようななか、1969年に日立鉱山の従業員向け広報紙『日立鉱山ニュース』に掲載されたものである。

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  竹本副所長に聞く

    当面、一億円で浄化

      当所宮田川汚水対策案

公害問題が重視されているおりもおり、新聞で宮田川の汚水問題がとりあげられ世間の関心をひいている。そこ当所がどのような姿勢で、この問題に取り組もうとしているのか、このへんの考え方を竹本副所長に聞くことにした。

 カドミは「望ましい基準」以下

編集部 このところ宮田川にカドミウムが流れているということが新聞にとり上げられております。このへんの問題についてお聞きしたいと思います。

副所長 そうですね。宮田川は汚れているだけでなくカドミも流れておったのかということで、世間も驚いているようですが、これはみなさんが心配されるようなものではないということをまず申し上げたいと思います。

編集部 そのへんの事情についてわかりやすくお話し下さい。

副所長 カドミは亜鉛と結びついて出てくるものですが、この亜鉛は鉄、アルミなどとともに地球上に広く存在するものなので当所に関していえば、岩石の中を流れてくる坑内水にも含まれているわけです。

編集部 そうすると昔から流れていたわけですね。

副所長 そういうことです。それに坑内水は選鉱や製錬、硫酸などにも使用しておりますので、各所から、宮田川に排出されております。しかし、これまでも別にかくしたわけでは全然ありません。非常に少量ですから、問題を生ずることはないと思っていたためで す。

 みなさんもご存知のことと思いますが、野菜、魚、穀物、みなさんの飲まれる酒やジュースにだってカドミは含まれているわけですね。ですから、これが許容される基準値を非常に越えるものだと害になるわけでしょうが、要するに含有する程度が問題になってくるわけです。

編集郎 当所の場合、問題ないとおっしゃる根拠は何なのでしょうか。

副所長 排水中のカドミウムの許容濃度に関す基準については学説もいろいろに分かれているのですが、さる9月16日付で厚生省から都道府県知事宛指導方針として出された「カドミウムによる環境汚染暫定対策要領」によれば、「川水中に薄められる前の排水中のカドミウムは、通常〇・一PPM以下であることが望ましい」となっております

 当所の責任限界地点である電錬下の橋下橋で、昨年十月と今年六月に保安監督部と協同検査したさいの資料では、この基準をはるかに下まわっているわけです。

 それから、宮田川の場合その川水は飲料水や農業用水としてまったく利用されていないということもその特色であると思います。

 昔はかんがい用水と精米用の水車用水として利用されていたこともあったのですが、その後坑廃水 による鉱害を未然に防止するため流域の都市化を進め、現在宮田川の水を使っているところはまったくありません。したがって川の沿岸で問題を生じている他の河川の場合とは、事情が大変にちがうということです。

編集部 新聞紙上では、漁業への影響をとり上げていたようですが。

副所長 これもやはり基準値との比較から説明した方がわかりやすいと思います。

 県の条例では、海へ流入する地点で3PPMということを定めておりますが、当所の場合はさきほども申し上げましたとおり、当所の責任限界地点で〇・一PPMよりはるかに低く、しかも海に入れば大量の海水によって何十倍、何百倍にも薄められてしまうわけですから数字的に判断しても、当所から排出されるカドミのために魚貝類が汚染され、これを食べれば人体に害をおよぼすということはないと思います。

編集部 カドミウムの問題は大体わかりましたが、いわゆる選鉱の汚水対策はどうなっているのか。このへんのお話をお願いしたいのですが。

副所長 宮田川の水質問題はカドミよりも、選鉱廃水が河口海域の漁業に及ぼす影響と、沿岸の美観を損ねるということにあると思います。

 まず、河口周辺の海草、貝類および沿岸棲息の根魚に対する影響に関しましては、大正三年に漁業組合と誠意をもって交渉した結果、相当高額の補償見舞金を支払い、平和裡に永久解決をみております。

 もう一つの美観の問題については根本的に汚水を流さない対策が必要になってきます。

 じつは、当所としては公害問題が世間の大きな話題になる以前から廃水を浄化して漁業への影響もなくし、美観も昔の姿に返したいということで研究を進めてきております。

編集部 その一つが軽量骨材の研究ということですね。

副所長 そう。軽量骨材製造の原料に選鉱廃滓を使えば根本的に解決できるのですが─技術的には一応の成功を収めたものの市場やパートナーなどの問題から実現には、なお数年を要するようです。しかしそれまで放っておくというわけにはいきませんから、約一億円を投じて、各種の水質改善施設を計画し、八月末に東京鉱山保安監督部へ提出しております。

 その認可がありしだい逐次建設し、おそいものでも、45年度中には完成する予定です。これが完成すれば、濁度も金属類もおおむね半減する効果が期待されましょう。

編集部 手は打たれているということですね。

副所長 当所では、社祖久原翁が地元との共存共栄の理念のもとに大正四年社運を賭して大煙突を建設し、深刻をきわめた煙害を解決したほか、鉱害の除去のため精魂を傾けて各種の施策を講ずる一方発生した鉱害に対しては、当時としては、異例のことでありましが、実害に約一〇%の精神的被害を加えた補償を行ったことなど一貫して、地元の住民のかたがたと共存共栄のために、誠心誠意尽力してきております。

 今回の、排水問題につきましても県条例などの基準値からすれば問題ないので、対策を講ずる必要はないのではないかという考え方もあるかもしれないが、わたしたちとしては、六〇年来培ってきた鉱害対する精神基調にさらに近代感覚をもりこみ、自主的に水質改善に取り組んでいきたいと考えております。

編集部 ありがとうございました。

『日立鉱山ニュース』(第199号 昭和44年10月1日)より

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