大窪詩仏の詩と書をあじわう 六
詩巻「肆禽言」
- 遅々快 携佳人歩遅々 雖云非骨肉情義如連枝 相見良不易 況値此芳時 斗量珠車載錦 与君同傾黄金巵 人生快楽莫如酒 對花惜醉亦何為
右遅々快 - 遅々快、佳人を携えて歩すること遅々。骨肉に非ずと云うと雖も、情義は連枝の如し。あい見るは良に易からず。況んや此の芳時値うをや。斗に珠を量り、車に錦を載す。君と同じく傾けん黄金巵、人生の快楽、酒に如くは莫し。花に対して醉を惜しむもまた何をか為さん。
遅々快(小綬鶏) - チチカイと鳴きながら佳人を伴ってゆっくり歩いている。肉親でなくてもその情愛は同胞兄弟のようだ。なかなか姿を見られない。春はなおさらだ。まして春の花の時期にはなかなか遭えない。せっかく出会った。玉を枡ではかり、錦を車に載せて、君と黄金の杯を傾けたいものだ。人生の快楽は酒がいちばん、花に対して酔わないことがなにになろう。
- 慈悲心 父生我母育我 其恩深 敎我以義方 使免獣与禽 慈悲心父母恩如海 世人徒念観世音
右慈悲心 - 慈悲心、父、我を生み、母、我を育む、その恩深し。我を教うるに義方を以てす。獣と禽とを免れしむ。慈悲心、父母の恩は海の如し。世人徒らに念ず、観世音。
慈悲心(仏法僧) - 慈悲の心深く、父が私に生をもたらし、母が私を育ててくれた。その恩の深さよ。私に正しい道を教えて禽獣と異ならしめた。慈悲心の深さよ。父母の恩は海のようで、世の人々はただ観世音を拝むばかりだ。
- 月日星 一聲両聲帯聲翔 殘日三竿猶未没 月伴小星放光芒 欲報人々知此景 聲々呼過何其忙 世無奇才蘇学士 誰吐妙句對三光
右月日星 - 月日星、一声両声、声を帯びて翔ぶ。残日三竿猶お未だ没せず。月は小星を伴なって光芒を放つ。人々に報じ、此の景を知らしめんと欲し、声々呼び過ぐること何ぞそれ忙しき。ああ世に奇才の蘇学士無し。誰れか妙句を吐いて三光に対せん。
月日星(三光鳥) - 月日星と一声二声鳴きながら翔ける。夕日はまだ高く、月が小さな星ともども光を放っている。人たちにこの景色を知らせようと鳴きながら呼び過ぎる。そのせわしいことよ。今の世に奇才の蘇軾はいないから、誰も妙句で三光鳥に対抗できる者はいない。
- 法々華經 蓮師宗門唱法華 破壊八宗創一派 念佛無間禅天魔官為異端置死地 已以身命委泥沙 一旦遇赦為開祖 法々華經靈異多 小鳥無知猶解唱 柳邊花外聴如嘩
右法法華經 - 法々華経、蓮師の宗門、法華を唱う。八宗を破壊して一派を創る。念仏無間、禅天魔、官は異端と為し、死地に置く。已に身命を以て泥沙に委ぬ。一旦赦に遇うて開祖となる。法々華経、霊異多し。小鳥知る無くもなお唱を解す。柳辺花外、聴くに嘩の如し。
法法華経(ホトトギス) - 法法華経、日蓮師の宗門は法華を唱え、八宗を破壊して一派を創った。念仏を無間地獄となし、禅を天魔外道とした。官衙は異端として死地に追いやった。まさに身命が泥土に塗れようして赦免されて開祖となったのだ。その法華経は霊験が多い。小鳥は何も知らなくても唱えている。柳や花のまわりにうるさいほどに唱えている。
『詩聖堂詩集二編』巻6
作品は「江戸民間書画美術館 渥美國泰コレクション」より
参考文献:『大窪詩仏展 江戸民間書画美術館 渥美コレクション』