日本坑法 条文 1873年制定・施行
1873年(明治6)に制定された日本坑法の条文を紹介する。
鉱業に関する法律制定経過
1873年(明治6)7月20日、日本坑法制定、同年9月1日施行
1890年(明治23)9月26日、鉱業条例公布。92年施行。日本坑法廃止
こちら 鉱業条例
1905年(明治38)3月7日、鉱業法公布。同年7月1日施行。鉱業条例廃止
こちら 旧鉱業法
1950年(昭和25)、新鉱業法制定。旧鉱業法廃止
参照文献
- 幸豹三編『現行増補 日本坑法類纂』(1881年3月刊 国会図書館デジタルコレクション)
- 井上幸吉編輯『改正増補 日本坑法』(1884年4月刊 国会図書館デジタルコレクション)
テクスト
- ◦国立公文書館「太政類典」第2編(同館デジタルアーカイブ)に収録されたものによった。
翻刻にあたって
- ◦縦書きを横書きに改めた。
- ◦漢字は一部を除いて常用漢字を用い、カタカナはひらかなに改めた。
- ◦合字はひらかなに改めた。
- ◦割註は〈 〉でくくった。
- ◦原文に読点はないが、編者において付した。
内容細目
- 第一章 坑物
- 第二章 試掘
- 第三章 借区開坑
- 第四章 通洞
- 第五章 坑業
- 第六章 廃業
- 第七章 製鉱所建築
- 第八章 税納
- 坑法附示
[明治6年]七月二十日
第二百五十九号
今般鉱山其他諸坑業の規則別冊の通改定候に付ては凡坑物に関係の事件は工部省に於て総管せしめ候条自今金属其外諸坑物営業の儀都て同省へ可申立候、此旨布告候事
日本坑法
- 第一章 坑物
- 第一 正理を以て論するときは凡無機物たる者は〈生活の機なき諸物品〉都て坑業の部分に属す、此無機物品質二類に分る、即第一類は有鉱質、二類は無鉱質たり、凡諸金属の天然本資を以て出る者或は他の物質と合化して出る者は右第一類に属す、燃質物、山鹽、燐酸、石灰、美石及玉璞の類は右第二類に属す〈本条挙る所の有鉱質、無鉱質とも総て是を坑物と称す、坑山、坑業、坑区、坑産等皆之に倣へ ○天然本資は本質の誤 七月廿八日正誤布告〉
- 第二 前に掲記せし物類凡日本国中に於て発見する者は都て日本政府の所有にして、獨政府のみこれを採用する分義あり
- 第三 築石、土砂、粘土其他建築、耕作所用の諸物品は都て地主たる者の所有とすへし
- 第四 日本の民籍たる者に非されは試堀を作し坑区を借り坑物を採製する事業の本主或は組合人と成ることを得す〈坑産の割合及損益に関係する所のものは都て組合とす〉、若しこれを犯す者は其業に属する所有物を官に没入して其業を禁止すへし
- 第二章 試堀
- 第五 試堀を作さんと欲する者は鉱山寮に願出許可を得て之を行ふへし
試堀を行ふ為に必要の地面他人に属せは其償金を對談處分すへし
地主にして自ら試堀を企る者は衆に超て許可を得へき分義ありとす、然れとも自ら試堀の資本無くして他人の挙を拒み、或は不当の償金を貪らは鉱山寮或は地方官にて正價を裁決して其地を買上くへし - 第六 試堀にて坑物発見するときは直に見本を添て鉱山寮に届出つへし、且試堀中は一月七月両度毎に前六ヶ月間の行業日数及工数并産鉱量を開報す可し
凡産鉱は借区券を〈第十款に出つ〉得る後に非されは恣に賣却するを得す、若し之に背かは其全價を没収すへし - 第七 試堀は都て一年間を以て期限とす、若延期を願出るに実に未た開坑を决することを得さる事理判然たらは之を許可すること有るへし
- 第八 試堀人廃業するときは第二十七款廃坑則の如くすへし
此時に産鉱は鉱山寮の許可を得て賣却し、第三十一款の坑物税を納むへし
試堀人損失に因て廃業する事実判然たるに於ては坑物税を免すること有るへし - 第三章 借区開坑
- 第九 開坑する者は先つ坑区を得へし、坑区の廣狭は其適実なる起業の目途に応して之を得せしむへし
有鉱質坑を開く者は必す製鉱の業を兼ぬへし、凡借区開坑は鉱山寮に願出へし、此願書に其得んと欲する坑区の測量図を添て出すへし
試堀を経て借区願出る者は其坑区中別に地主有りと雖とも之を拒むを得す、尤其處分は借区券を得るの後廿二款の如くなるへし - 第十 願出の借区は鉱山寮官員之を験測し標石を植て境界を識別すべし
巡回官員帰報の後許可すへきは工部全権の證印を以て借区券を附與すへし - 第十一 凡借区は通常十五年間を以て定期とす、之を終るに至て継年期は新に願出すへし
- 第四章 通洞
- 第十二 通洞〈坑道は縦横に小坑を穿つを通常とす、別に探鉱、疏水、運輸等の為め地底を横截し一道の大坑を穿つあり、之を通洞と云ふ〉我借区中に非すと雖とも之を企ることを得へし、此時は願書に目論見明細図を添て鉱山寮へ出すへし、若し其通洞他人の借区に亘渉すへきは豫め其借区人にも報知すへし
通洞は高九尺幅六尺より減すへからす、是より小なるは通洞とせす - 第十三 願出の通洞は鉱山寮官員実地勘踏帰報の後許可すへきは工部全権の證印を以て免状を附與すへし、免状を得るの後若し目論見図に違ひ方向を転し、或は距離を延縮せんと欲せは更に鉱山寮へ願出許可を得て之を行ふへし
- 第十四 借区人何れも自ら通洞を開くへき資本有に非されは我区中たりと雖も他人挙を拒むへからす
通洞保全の為めに其周囲の土石を外より厚さ一間半以内に堀入るへからす、然れとも其跡に自己の入費を以て支柱を構造し崩潰の患無からしむる者は此限に非す〈是は坑物を得むか為に一旦土石を堀出す時の如き是也〉 - 第十五 通洞に因て諸借区人便利を得ることあらは通洞発起人に其謝金を出すへし、若し之に就て対談穏当ならすは鉱山寮より處断すへし
通洞を開く者は借区人未定之所に於ては通洞の周囲内より出るたけの礦石を取ることを得へし、他人の借区中に於ては此礦石の一半を借区人に帰すへし - 第五章 坑業
- 第十六 都て坑業に付ては坑物を坑中支柱の為に存すへき所の外は成る丈坑利を遺すことなく取出すへし、此法を犯し其他都て坑の利用を害するものは其軽重に随て罰金を徴す可し
- 第十七 試堀開坑或は通洞等を企るには舎屋、鉄道、河流及道路の如き其害を受へき場所は度を計て之を避け、殊に城堡は七十間以内の地を避くへし
凡場所の主たる者応諾するに非すして此を犯す者あれは、城堡は其律に任し餘は其損害を償復する一倍の費額を取て本費は其主に附與すへし - 第十八 凡初発許可を得し坑物の外に別種の坑物を見出す者は速に鉱山寮に報知すへし、此を背く者は其坑物又は代價を取揚くへし
如此類の借区税は第三十一條に照準し高價なる方の例を以て納むへし - 第十九 開坑人は歳々一月七月両度毎に前六ヶ月間に産出せし坑物量、其賣出高並代價及行業日数、工数を具記して鉱山寮に報知すへし
有鉱質は坑産量並製出量且製出せし混淆物二種以上の金属を含有するは其試験の割合をも具記して賣出高以下都て前の如くすへし
右数量不正或は開報違期の罰は金五十円とす、若し賣出高並代價を減書する者は其減書せし高の三倍を徴収すへし - 第二十 通例開坑又は廃鉱を採製するにも一年間の事業は地面五百坪の下に就て壮健なる一夫三百日を以て成せる程の工数より減すへからす、若し之に背く者実に百方免れ難く妨碍判然たるにあらすんは其業を禁止すへし
- 第二十一 坑業人は互に隣坑の風通しを便利にすへし、且甲区より乙区の地中に水道を通し地上の要路を通せんことを求るに於ては不当の償金を貪る可らす、若相対を以て决せすんは鉱山寮より所断すへし
右堀通しに付て出る礦石は其所の借区人に属すへし - 第二十二 凡借区人は区上に於て蔵庫、詰所、作事場、洗礦所、鎔鉱所、通路等其他坑業に必要なる地面は地主たる者豫め償金を辨すへし、若し異論决せすんは鉱山寮或は地方官にて正價を裁决し、其地を買取へし
- 第二十三 総て坑区より隣区に患害損傷を被らしむるときは之を償ふへし、若償金决せすんは鉱山寮より裁决すべし
- 第二十四 凡借区人其坑業を年限中他人に譲渡す如きは前以て雙方より鉱山寮に願出許可を請ふへし、若し之に背く者は其業を禁止すへし
- 第二十五 凡借区年限終り又は法に背ひて其業を禁止せられ或は自ら廃業するに至る者有れは都て其借区は政府に還復し、其事業に就て如何なる負債ありと雖も総て其坑山には関係せさる者とす、此時に当て地中結構は坑山に属して政府の有たるへし
地上の営業は其主の取去るに任すと雖も、其趾の地面は完全に修復をなすへし - 第二十六 坑業人は其坑山地方の住民同様とす、因て其地方官の諸法令を遵守すへし
- 第六章 廃業
- 第二十七 坑業を廃せんと欲する者は竪坑の口を掩ひ又柵囲ひすへし、鉱山寮より其竪坑を当然に堅固にせしや且坑内の営繕完全存在するやを検査すへし、若疎漏あらは鉱山寮に於て是を繕治すへき費額の一倍を徴収すへし
- 第二十八 鉱山寮より疏水を命するに背きて其事を行はす、之れか為め坑中廃没するに至る者は其業を禁止す
- 第七章 製鉱所建築
- 第⼆⼗九 凡開坑人坑山外の場所にて有鉱質物を製出せん為めに建築すへきものあらは先鉱山寮に許可を請ふへし
- 第三十 已に製煉せし鉱物を精製〈荒銅を丁銅、棹銅に作り、山吹金を純金に製する類を云〉する職業の者は起業を鉱山寮に報知し、六ヶ月毎に元鉱量並製出品量等を具記し鉱山寮に開報すへし
- 第八章 税納
- 第三十一 鉄を除くの外有鉱質物を採取する坑区は面積五百坪毎に一ヶ年金一円つゝ借区税として毎年一月に前一年分を鉱山寮に納むへし〈借区税は地租に関係せす〉、鉄及ひ無鉱質の諸物品を採取する坑区は面五百坪に付前條の半高を納むへし、即金五十銭とす
廃礦を採取する坑区は面千坪に付常例の税額を納むへし
開坑区面五百坪、廃礦区面千坪とに足さるものは総て右面積の比例に随て納むへし
借区初年の区税は月割にて納むへし
前書借区税の外に採製せし金属及諸坑物に就て代價百分の三より百分の二十まてを坑物税として毎歳一月七月両度に鉱山寮へ納むへし
但税額の儀は其坑業の盛衰に随ひ鉱山寮より命すへし - 第三十二 試堀開坑或は通洞等に付て前後諸條款に記せる税或は罰金、償金等を納めさるときは、其業に属する所の運移すへきもの残らす鉱山寮より入札払にして代價の中より不納高を引去り、其残金は之を本人に還付すへし
- 第三十三 凡坑法の意旨に戻る過失有る者は軽重に随て罰金を命すへし、若事業踈略にして人命を失はゞ国律を以て論處すへし
- 右章款に記載せる方法は明治六年九月一日より施行すへし、従前の法則及ひ舊習等若し此法に矛盾する者は都て廃停たるへし
- 坑法附示
- 坑業及製鉱の業を挙行する者西洋の学術及工作を用ひしか為め一定の給料を以て外国技術家を雇入るゝか如きは、我坑産損益及所有物に関係すること無きに因て坑法第四款の禁に触れす、然れとも之を雇入るゝの以前其職業給料及年限を分明に記載し、其按紙を鉱山寮へ送呈して結約の許可を可請候事
- 書類式様
- 表面に [別記 1]
- 試堀願
私儀某県管下某国某地に於て何礦を堀得へく覚候故先試堀仕度候間御聞届被下度奉願候以上
年号月日 某県貫籍某国某郡某村・町某職業
某 印
前書願出の趣御聞届相成度候也
年号月日 某 県 令 某 印 -
試堀人に與る證
某県某地某位置誰地に於て某貫籍某職業某何礦試堀願の通聞届候、尤日本坑法に違戻致間敷者也
年号月日 鉱 山 寮 印 -
表面に [別記 2] - 借区開坑願
私儀某年月某地に於て試堀相願候處何鉱発見いたし〈又後来何鉱を堀出すへき見込に付〉候に付別紙図面の場所に於て借区開坑被差許度此段奉願候以上
年号月日 某県貫籍某国某郡某村・町某職業
某 印
前書願出之趣御聞届相成度候也
年号月日 某 県 令 某 印
借区券
某年月某地幾方面某貫籍某職業某某境界云々の場所に於て別紙図面の通十五ヶ年間借区開坑差許候、尤日本坑法を確奉可致者也
年号月日 工 部 全 権 某 印-
表面に [別記3] - 通洞願
私儀〈疏水運輸或は探礦の為〉通洞堀通し度右通洞別紙図面の某場所に有之候、尤通洞の地位に当り候借区の主某に報知仕置候右通洞堀方御聞届被下度奉願候以上
年号月日 某県貫籍某国某郡某村町某職業
某 印
前書の通御聞届相成度候也
年号月日 某 県 令 某 印 -
通洞券
某年月願出候某貫籍某職業某某地に於て別紙図面の通通洞堀通候事差許候、尤日本坑法を確奉可致者也
年号月日 工 部 全 権 某 印
[別記1] [別記2] [別記3]