旧鉱業法 条文 1905年公布・施行
1905年(明治38)に公布された鉱業法の条文を紹介する。
鉱業に関する法律制定経過
1873年(明治6)7月20日、日本坑法制定、同年9月1日施行 日本坑法
1890年(明治23)9月26日、鉱業条例公布。92年施行。日本坑法廃止
鉱業条例
1905年(明治38)3月7日、鉱業法公布。同年7月1日施行。鉱業条例廃止
1950年(昭和25)、新鉱業法制定。旧鉱業法廃止
テクスト
- ◦国立公文書館蔵「鉱業法制定鉱業条例廃止・御署名原本・明治三十八年・法律第四十五号」(同館デジタルアーカイブ)によった。
翻刻にあたって
- ◦縦書きを横書きに改めた。
- ◦漢字は一部を除いて常用漢字を用いた。
内容細目
- 第一章 総則
- 第二章 鉱業権
- 第三章 土地使用
- 第四章 鉱業警察
- 第五章 鉱夫
- 第六章 鉱業税
- 第七章 訴願、訴訟及裁決
- 第八章 罰則
- 附則
法律第四十五号
鉱業法
- 第一章 総則
- 第一条 本法ニ於テ鉱業ト称スルハ鉱物ノ試掘、採掘及之ニ附属スル事業ヲ謂フ
- 第二条 本法ニ於テ鉱物ト称スルハ金鉱、銀鉱、銅鉱、鉛鉱、蒼鉛鉱、錫鉱、安質母尼鉱、水銀鉱、亜鉛鉱、鉄鉱、硫化鉄鉱、格魯謨鉄鉱、満俺鉱、重石鉱、水鉛鉱、砒鉱、燐鉱、黒鉛、石炭、亜炭、石油、土瀝青及硫黄ヲ謂フ
但シ砂鉱ハ此ノ限ニ在ラス - 第三条 未タ掘採セサル鉱物(廃鉱及鉱滓ヲ含ム)ハ国ノ所有トス
- 第四条 本法ニ於テ鉱業権ト称スルハ試掘権及採掘権ヲ謂フ
鉱業権者ハ鉱區ニ於テ其許可ヲ受ケタル鉱物ヲ掘採シ及之ヲ取得スル権利ヲ有ス、但シ鉱区ノ重複シタル場合ニ於テハ鉱業権者ハ互ニ其ノ権利ヲ制限セラル - 第五条 帝国臣民又ハ帝国法律ニ従ヒ成立シタル法人ニ非サレハ鉱業権者トナルコトヲ得ス
- 第六条 本法ニ規定シタル鉱業権者ノ権利義務ハ鉱業権ト共ニ移転ス
本法ノ規定ニ依リ為シタル手續其ノ他ノ行為ハ鉱業ヲ出願セムトスル者、鉱業出願人、鉱業権者、土地所有者又ハ関係人ノ承継人ニ対シテモ其ノ効力ヲ有ス - 第七条 二人以上共同シテ鉱業ヲ為シ又ハ之ヲ為サムトスルトキハ内一人ヲ選定シテ代表者ト為シ鉱山監督署長ニ届出へシ 其ノ届出ナキトキハ鉱山監督署長之ヲ指定ス
代表者ハ国ニ対シ共同鉱業出願人又ハ共同鉱業権者ヲ代表ス
共同鉱業出願人又ハ共同鉱業権者ハ組合契約ヲ為シタル者ト看做ス - 第八条 本法ニ於テ鉱夫ト称スルハ鉱業ニ従事スル労役者ヲ謂フ
- 第九条 本法ニ於テ鉱区ト称スルハ鉱業権ノ登録ヲ得タル土地ノ区域ヲ謂フ
鉱区ノ境界ハ直線ヲ以テ之ヲ定メ地表境界線ノ直下ヲ限トス 其ノ面積ハ石炭ニ在リテハ五万坪以上其ノ他ノ鉱物ニ在リテハ五千坪以上トシ共ニ百万坪ヲ超ユルコトヲ得ス 但シ鉱利保護上又ハ鉱区分合上已ヲ得サル場合ニハ百万坪ヲ超ユルコトヲ得
同一ノ鉱区ニ於テハ二以上ノ鉱業権ヲ設定スルコトヲ得ス 但シ其ノ目的異種ノ鉱物ナルトキ及第三十六条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス - 第十条 宮城、離宮、神宮及皇陵ノ周囲三百間以内竝要塞地帯第一区内ノ場所ハ之ヲ鉱区ト為スコトヲ得ス
陸海軍所轄ノ軍港、要港、火薬製造所、火薬庫及弾薬庫ノ周囲三百間以内竝要塞地帯第二区及第三区内ノ場所ハ所轄官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ鉱区ト為スコトヲ得ス
前二項ニ掲ケタル場所ハ所轄官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ鉱業ノ為之ヲ使用スルコトヲ得ス - 第十一条 鉄道、軌道、道路、運河、河湖、沼池、隄塘、社寺境内地、墓地、公園地其ノ他ノ営造物及建物ノ地表地下トモ其ノ周囲三十間以内ノ場所ニ於テハ所轄官庁ノ許可、所有者及関係人ノ承諾ヲ受クルニ非サレハ鉱業ヲ為シ又ハ鉱業ノ為之ヲ使用スルコトヲ得ス 但シ所有者及関係人ハ正当ノ理由ナクシテ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
- 第十二条 鉱業出願地又ハ鉱区ノ訂正、増減及改正ノ出願ニ付テハ鉱業ノ出願ニ関スル規定ヲ準用ス
- 第十三条 本法ニ於テ鉱業税ト称スルハ鉱区税及鉱産税ヲ謂フ
- 第十四条 本法ハ第八章ノ規定ヲ除クノ外国ノ鉱業ニ之ヲ適用ス
- 第二章 鉱業権
- 第十五条 鉱業権ハ物件トシ不動産ニ関スル規定ヲ準用ス 但シ民法第百七十九条第一項ノ規定ハ此ノ限ニ在ラス
- 第十六条 鉱業権ハ不可分トス
- 第十七条 鉱業権ハ相續、譲渡、滞納處分及強制執行ノ目的タルノ外権利ノ目的タルコトヲ得ス 但シ採掘権ハ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得
- 第十八条 試掘権ノ存續期間ハ登録ノ日ヨリ二箇年トス
前項ノ期間ハ鉱区ノ増減又ハ改正ノ為変更セラルルコトナシ - 第十九条 鉱業権及抵当権ノ設定、変更、移転、消滅竝處分ノ制限ハ鉱業原簿ニ登録ス 共同鉱業権者ノ脱退ニ付テモ亦同シ 但シ鉱業権ノ處分ヲ制限セラレタルトキハ廃業ノ登録ヲ為スコトヲ得ス
- 第二十条 前条第一項ニ掲ケタル事項ハ相續、期限ノ到来ニ因ル鉱業権ノ消滅竝第四十二条及第四十三条ノ競賣ノ場合ヲ除クノ外登録ヲ為スニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
- 第二十一条 鉱業ヲ為サムトスル者ハ願書ニ鉱区図ヲ添へ、試掘ニ付テハ鉱山監督署長、採掘ニ付テハ農商務大臣ニ出願スへシ
- 第二十二条 鉱業出願人ハ名義ノ変更ヲ為スコトヲ得 此ノ場合ニ於テハ試掘ニ付テハ鉱山監督署長、採掘ニ付テハ農商務大臣ニ届出ヲ為スニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
- 第二十三条 採掘出願人ハ出願地ニ其ノ採掘セムトスル鉱物ノ存在スルコトヲ證明スへシ
- 第二十四条 農商務大臣ニ於テ試掘出願地採掘ニ適スルモノト認メタルトキハ採掘ノ出願ヲ命スへシ
前項ノ場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ採掘ノ出願ヲ為ササルトキハ試掘ノ出願ハ之ヲ許可セス
前二項ノ規定ハ農商務大臣ニ於テ採掘出願地仍試掘ヲ要スルモノト認メタル場合ニ之ヲ準用ス - 第二十五条 採掘出願地ノ位置形状鉱床ノ位置形状ト相違シ鉱利ヲ損スルモノト認メタルトキハ農商務大臣ハ其ノ訂正ノ出願ヲ命スへシ
前項ノ場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ訂正ノ出願ヲ為ササルトキハ採掘ノ出願ハ之ヲ許可セス - 第二十六条 採掘出願地ノ位置形状鉱床ノ位置形状ト相違シ鉱利ヲ損スルモノト認メタルトキハ採掘出願人ハ其ノ訂正ヲ出願スルコトヲ得
- 第二十七条 鉱業出願人ハ出願地ノ増減ヲ出願スルコトヲ得
- 第二十八条 試掘出願地出願ノ当時鉱区ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鉱物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ其ノ出願ヲ許可セス
- 第⼆⼗九条 採掘出願地出願ノ当時他⼈ノ鉱区ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鉱物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ其ノ出願ヲ許可セス 但シ第三⼗六条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
- 第三十条 採掘出願地他人ノ試掘出願地ト重複スル場合ニ於テ同種ノ鉱物ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ第二十四条第一項及第二項ノ規定ヲ準用ス
- 第三十一条 鉱業出願地他人ノ鉱区ト重複スル場合ニ於テ異種ノ鉱物ナルトキハ鉱山監督署長ハ之ヲ鉱業権者ニ通知スへシ
鉱業権者ハ前項ノ通知書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ自ラ其ノ鉱業ヲ出願スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ第三十六条及豫メ鉱業権者ノ承諾ヲ得タル場合ニハ之ヲ適用セス
第一項ノ出願他人ノ鉱業ニ妨害アリト認メタルトキハ之ヲ許可セス - 第三十二条 公益ヲ害スルモノト認メタルトキ又ハ鉱業ノ價値ナシト認メタルトキハ鉱業ノ出願ヲ許可セス
- 第三十三条 試掘出願地又ハ採掘出願地重複スルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ願書発送ノ日時ノ先ナル者優先権ヲ有ス 願書発送ノ日時同一ナルトキハ鉱山監督署長ハ之ヲ各出願人ニ通知スへシ 此ノ場合ニ於テハ出願人ハ其ノ通知書発送ノ日ヨリ六十日以内ニ協議ヲ調へ之ヲ届出へシ
出願人前項ノ届出ヲ為ササルトキハ抽籤ニ依リ優先権者ヲ定ム
前二項ノ規定ハ第二十五条、第二十六条、第三十一条第二項及第三十六条ノ場合ニハ之ヲ適用セス
試掘出願地採掘出願地ト重複スル場合ニ於テ願書発送ノ日時ノ同一ナルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ採掘出願人ハ優先権ヲ有ス - 第三十四条 試掘出願人同種ノ鉱物ニ付更ニ採掘ノ出願ヲ為シタル場合ニ於テ出願地重複スルトキハ其ノ重複スル部分ニ付テハ採掘ノ出願ハ試掘願書発送ノ日時ニ於テ試掘ノ出願ニ代リタルモノト看做ス 但シ前条第四項ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
前項本文ノ規定ハ採掘出願人同種ノ鉱物ニ付更ニ試掘ノ出願ヲ為シタル場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ規定ハ第二十四条及第二十五条ノ場合ニ於ケル期限経過後ノ出願ニ之ヲ適用セス - 第三十五条 採掘権者ハ鉱区ノ合併又ハ分割ヲ農商務大臣ニ出願スルコトヲ得 鉱区ノ一部ヲ分割シテ之ヲ他ノ鉱区ニ合併セムトスルトキ亦同シ
抵当権ノ設定アル場合ニ於テ前項ノ出願ヲ為サムトスルトキハ抵当権者ノ承諾及抵当権ノ順位ニ関スル協定ヲ経へシ - 第三十六条 鉱床ノ位置形状ニ依リ鄰接スル他人ノ鉱区ニ掘進スルノ必要アルトキハ鄰接鉱業権者ノ承諾ヲ経テ鉱区ノ訂正ヲ出願スルコトヲ得 但シ鄰接鉱業権者ハ正当ノ理由ナクシテ其ノ承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
- 第三十七条 第二十五条第一項、第二十六条、第二十七条及第三十三条第三項ノ規定ハ之ヲ鉱区ニ準用ス
第二十五条第一項ニ該当スル場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ出願ヲ為ササルトキハ農商務大臣ハ採掘権ヲ取消スへシ
抵当権ノ設定アル場合ニ於テ鉱区ノ減少ヲ出願セムトスルトキハ豫メ抵当権者ノ承諾ヲ経へシ - 第三十八条 錯誤ニ因リ鉱業ノ出願ヲ許可シタルトキハ農商務大臣ハ鉱区ノ改正ヲ命シ又ハ鉱業権ヲ取消スへシ
前項ノ改正ヲ命シタル場合ニ於テ命令書到達ノ日ヨリ六十日以内ニ出願ヲ為ササルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スへシ - 第三十九条 鉱業公益ヲ害スルモノト認メタルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スへシ
- 第四十条 鉱業権者正当ノ理由ナクシテ登録ノ日ヨリ一箇年以内ニ事業ニ著手セス若ハ一箇年以上休業シタルトキ又ハ施業案ニ依ラスシテ採掘ヲ為シタルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スコトヲ得
- 第四十一条 鉱業権者第七十二条ノ命令ニ従ハサルトキ又ハ鉱業税ヲ納メサルトキハ農商務大臣ハ鉱業権ヲ取消スコトヲ得
- 第四十二条 採掘権取消ノ登録アリタルトキハ鉱山監督署長ハ直ニ之ヲ抵当権者ニ通知スへシ
抵当権者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ採掘権ノ競賣ヲ請求スルコトヲ得 但シ第三十八条第一項及第三十九条ノ規定ニ依ル採掘権取消ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
採掘権ハ前項ノ期間内又ハ競賣ノ手續完結ノ日迄競賣ノ目的ノ範囲内ニ於テ仍存續スルモノト看做ス
競賣ニ依ル賣得金ハ競賣ノ費用及抵当権者ニ対スル債務ノ辨済ニ充テ其ノ残金ハ国庫ニ帰属ス
競買人ハ採掘権取消ノ登録アリタル時ニ於テ採掘権ヲ譲受ケタルモノト看做ス - 第四十三条 前条ノ規定ハ採掘権者廃業シタル場合ニ之ヲ準用ス
- 第四十四条 採掘権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ施業案ヲ鉱山監督署長ニ差出スへシ、其ノ之ヲ変更シタルトキ亦同シ
採掘権者ハ施業案ニ依ルニ非サレハ採掘ヲ為スコトヲ得ス - 第四十五条 鉱山監督署長ハ理由ヲ示シテ施業案ノ変更ヲ命スルコトヲ得
前項ニ依リ変更シタル施業案ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ変更スルコトヲ得ス - 第四十六条 採掘権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ坑内実測図及鉱業簿ヲ鉱業事務所ニ備置キ且其ノ複本ヲ鉱山監督署長ニ差出スへシ
- 第四十七条 鉱業権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ鉱業ニ関スル明細表ヲ鉱山監督署長ニ差出スへシ
- 第四十八条 試掘ニ依リテ得タル鉱産物ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ處分スルコトヲ得ス
- 第四十九条 鄰接鉱業権者其ノ他ノ利害関係人ハ他人ノ鉱区ニ付鉱山監督署長ニ其ノ実地調査ヲ出願スルコトヲ得
出願人ハ前項ノ調査ニ要スル人夫及物品ヲ供スへシ - 第三章 土地使用
- 第五十条 本章ニ於テ関係人ト称スルハ第五十二条乃至第五十四条及第五十六条ノ通知前使用又ハ収用スへキ土地ニ関シテ権利ヲ有スル者及其ノ通知後ニ於テ通知前ヨリ既存セル権利ヲ承継シタル者ヲ謂フ
- 第五十一条 本章ニ於テ補償金ト称スルハ対價、使用料其ノ他ノ土地所有者及関係人ノ通常受クへキ損失ニ対スル補償金ヲ総称ス
- 第五十二条 鉱業ノ出願又ハ鉱業ノ為必要アルトキハ鉱業ヲ出願セムトスル者、鉱業出願人又ハ鉱業権者ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ測量又ハ検査ヲ為スコトヲ得
前項ノ許可ヲ得タル者他人ノ土地ニ立入ラムトスルトキハ豫メ土地占有者ニ通知スへシ - 第五十三条 前条ノ規定ニ依ル測量又ハ検査ノ為必要アルトキハ鉱山監督署長ノ許可ヲ得テ障碍物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ許可ヲ得タル者障碍物ヲ除却セムトスルトキハ豫メ其ノ所有者及占有者ニ通知スへシ - 第五十四条 鉱業上急迫ノ危険ヲ防ク為必要アルトキハ鉱業権者ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ得テ直ニ他人ノ土地ニ立入リ又ハ之ヲ使用スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ鉱業権者ハ遅滞ナク之ヲ土地占有者ニ通知スへシ - 第五十五条 前三条ニ依リ所有者及関係人ノ受ケタル損失ニ対シテハ其ノ請求ニ因リ補償金ヲ払渡スへシ
- 第五十六条 鉱業権者ハ左ニ掲クル目的ノ為必要アルトキハ他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ得
一 錐鑚孔又ハ坑口ノ開穿
二 鉱物、土石、爆発薬、用材、薪炭、鉱滓又ハ灰燼ノ置場ノ設置
三 選鉱場又ハ製錬場ノ建設
四 鉄道、軌道、道路、運河、溝渠、管樋、池井、索道又ハ電線ノ開設
五 其ノ他鉱業上必要ナル工事又ハ工作物ノ施設
前項ノ規定ニ依リ鉱業権者他人ノ土地ヲ使用セムトスルトキハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クへシ
鉱山監督署長前項ノ許可ヲ與へタルトキハ之ヲ土地所有者及関係人ニ通知スへシ
前項ノ通知ノ後鉱業権者ハ其ノ土地ニ関スル権利ヲ取得スル為土地所有者及関係人ニ協議ヲ為スへシ - 第五十七条 土地ノ使用三箇年以上ニ亙ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ変更スルトキハ所有者ハ其ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
- 第五十八条 土地ノ一部ヲ収用スルニ因リテ残地ヲ従来用ヰタル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
- 第五十九条 土地ヲ使用又ハ収用スルトキハ土地所有者及関係人ニ補償金ヲ払渡スへシ
- 第六十条 土地ノ一部ヲ使用又ハ収用スルニ因リテ残地ノ價格ヲ減シ其ノ他残地ニ関シ損失ヲ生スへキトキハ其ノ補償金ヲ払渡スへシ
- 第六十一条 土地ヲ使用又ハ収用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、増築又ハ修繕ヲ為スノ必要ヲ生スルトキハ其ノ補償金ヲ払渡スへシ
- 第六十二条 第五十六条ノ通知ノ後土地ノ形質ヲ変更シ工作物ノ新築、改築、増築若ハ大修繕ヲ為シ又ハ物件ヲ附加増置セムトスルトキハ土地所有者又ハ関係人ハ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クへシ 許可ヲ受ケスシテ之ヲ為シタル者ハ之ニ関スル補償金ヲ請求スルコトヲ得ス
- 第六十三条 第五十六条ノ通知ノ後事業ヲ廃止又ハ変更シタルニ因リテ土地所有者又ハ関係人ノ受ケタル損失ニ対シ鉱業権者ハ其ノ補償金ヲ払渡スへシ
- 第六十四条 土地所有者及関係人ハ鉱業権者ヲシテ補償金ニ付相当ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得
- 第六十五条 土地ノ使用又ハ収用ノ協議調ヒ裁決確定シ又ハ判決アリタルトキハ補償金又ハ擔保ノ裁決確定セサルトキト雖鉱業権者ハ其ノ裁決ニ依ル補償金ヲ供託シ亦ハ擔保ヲ供シテ土地ヲ使用又ハ収用スルコトヲ得
- 第六十六条 鉱業権者補償金ノ払渡若ハ供託ヲ為サス又ハ擔保ヲ供セサルトキハ土地所有者及関係人ハ土地ヲ用ウルコトヲ拒ムコトヲ得
- 第六十七条 土地ヲ収用スルトキハ収用ノ時期ニ於テ所有権ハ鉱業権者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ其ノ権利ハ使用ノ時期ニ於テ鉱業権者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ使用ノ期間其ノ行使ヲ停止セラル 但シ使用ヲ妨ケサルモノハ此ノ限ニ在ラス - 第六十八条 土地ノ使用ヲ終リタルトキハ鉱業権者ハ土地ヲ原状ニ復シ又ハ原状ニ復セサルニ因リテ生スル損失ニ対シ補償金ヲ払渡シテ之ヲ返還スへシ
- 第六十九条 先取特権、質権又ハ抵当権ハ其ノ目的物ノ使用又ハ収用ニ因リテ債務者ノ受クへキ補償金ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得 但シ其ノ払渡前ニ差押ヲ為スへシ
- 第七十条 土地ノ使用及収用ニ関スル規定ハ水ノ使用ニ関スル権利ニ之ヲ準用ス
- 第四章 鉱業警察
- 第七十一条 鉱業ニ関スル左ノ警察事務ハ命令ノ定ムル所ニ依リ農商務大臣及鉱山監督署長之ヲ行フ
一 建設物及工作物ノ保安
二 生命及衛生ノ保護
三 危害ノ豫防其ノ他公益ノ保護 - 第七十二条 鉱業上危険ノ虞アリ又ハ公益ヲ害スルノ虞アリト認メタルトキハ農商務大臣ハ鉱業権者ニ其ノ豫防又ハ鉱業ノ停止ヲ命スへシ
急迫ノ危険ヲ防ク為必要アルトキハ鉱山監督署長ハ前項ノ處分ヲ為スコトヲ得 - 第七十三条 農商務大臣ハ採掘権者ニ技術ニ関スル管理者ノ選任又ハ改任ヲ命スルコトヲ得
管理者ノ資格及職務ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム - 第七十四条 鉱業権消滅シタル後ト雖一箇年間ハ農商務大臣及鉱山監督署長ハ第七十二条ノ規定ニ準シ其ノ鉱業権ヲ有セシ者ニ対シテ危害豫防ニ関スル設備ヲ為スへキコトヲ命スルコトヲ得
前項ノ命令ヲ受ケタル者ハ危害豫防ノ目的ノ範囲内ニ於テ鉱業権者ト看做ス - 第五章 鉱夫
- 第七十五条 採掘権者ハ鉱夫ノ雇傭及労役ニ関スル規則ヲ定メ鉱山監督署長ノ許可ヲ受クへシ
- 第七十六条 鉱業権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ鉱夫名簿ヲ鉱業事務所ニ備置クへシ
- 第七十七条 鉱業権者鉱夫ヲ解雇シタル場合ニ於テハ其ノ請求ニ因リ雇傭ノ期間、業務ノ種類、技能、賃金及解雇ノ事由ヲ記載シタル證明書ヲ與フへシ
- 第七十八条 鉱業権者ハ毎月一回以上期日ヲ定メ通貨ヲ以テ鉱夫ニ其ノ賃金ヲ支払フへシ
- 第七十九条 農商務大臣ハ命令ヲ以テ鉱夫ノ年齢及就業時間竝婦女、幼者ノ労役ノ種類ヲ制限スルコト得
- 第八十条 鉱夫自己ノ重大ナル過失ニ因ラスシテ業務上負傷シ疾病ニ罹リ又ハ死亡シタルトキハ鉱業権者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ鉱夫又ハ其ノ遺族ヲ扶助スへシ
- 第六章 鉱業税
- 第八十一条 鉱業権者ニハ鉱業税ヲ課ス
金鉱、銀鉱、鉛鉱及鉄鉱ニ付テハ鉱産税ヲ課セス - 第八十二条 鉱業権者ニハ其ノ鉱業ニ付営業税ヲ課セス
- 第八十三条 鉱区税ハ鉱区一千坪毎ニ毎年試掘ニ付テハ十銭、採掘ニ付テハ四十銭トス、但シ一千坪未満ハ之ヲ一千坪ト看做ス
- 第八十四条 鉱区税ハ毎年十二月中ニ翌年分ヲ前納スへシ
第三十五条第一項ニ依ルモノヲ除クノ外鉱業権ノ設定若ハ変更ノ登録ニ依リ新ニ負擔シ又ハ不足セル鉱区税ニシテ其ノ登録ノ年ニ係ルモノハ之ヲ即納スへシ
前項ニヨリ納付スへキ鉱区税ハ月割ヲ以テ之ヲ計算ス 鉱業権ノ存續期間満了ノ年ニ係ルモノ亦同シ - 第八十五条 鉱産税ハ鉱産物ノ價格ノ百分ノ一トス
鉱産物ノ價格ハ主要ナル市場ノ平均相場ヲ標準トシ農商務大臣之ヲ告示ス 其ノ告示セサルモノハ之ヲ検定ス - 第八十六条 鉱産税ハ毎年三月中ニ前年分ヲ納付スへシ 但シ鉱業権消滅ノ場合ニ於テハ即納スへシ
- 第八十七条 共同鉱業権者ノ納付義務ハ連帯トス
- 第八十八条 北海道、府県及市町村ハ鉱業税ニ対シ各本税百分ノ十以内ノ附加税ヲ課スルコトヲ得
前項ノ附加税ノ外北海道、府県及市町村ハ鉱業ニ対シ又ハ鉱夫、鉱産物、鉱区若ハ直接鉱業用ノ工作物、器具、機械ヲ標準トシテ課税スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ北海道及沖縄県ノ区竝間切島其ノ他ノ町村ニ準スへキモノニ之ヲ準用ス - 第七章 訴願、訴訟及裁決
- 第八十九条 鉱業ニ関スル出願ノ許可又ハ拒否ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
- 第九十条 第十一条又ハ第三十六条ノ承諾ヲ拒マレタル者及其ノ承諾ヲ得ルコト能ハサル者ハ鉱山監督署長ノ裁決ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ裁決ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得 違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得 - 第九十一条 鉱業権ノ取消ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得 違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
- 第九十二条 土地ノ使用若ハ収用、補償金又ハ擔保ニ付協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ為スコト能ハサルトキハ鉱業権者ハ鉱山監督署長ノ裁決ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ裁決中土地ノ使用又ハ収用ニ付不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得 違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得 第一項ノ裁決中補償金又ハ擔保ニ付不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得 - 第九十三条 處分又ハ裁決ノ通告書ヲ受ケタル日ヨリ三十日ヲ経過シタルトキハ訴願又ハ訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
前項ノ期間ハ處分又ハ裁決ノ通告書ヲ受ケサル者ニ付テハ其ノ公示ノ日ヨリ之ヲ起算ス - 第八章 罰則
- 第九十四条 鉱業権ヲ有セスシテ鉱物ヲ掘採シタル者又ハ詐偽ノ所為ヲ以テ鉱業権ヲ得タル者ハ二年以下ノ重禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ處ス
過失ニ因リ鉱区外ニ侵掘シタル者ハ五百円以下ノ罰金ニ處ス - 第九十五条 前条ノ場合ニ於テハ其ノ掘採シタル鉱物ヲ没収ス 既ニ之ヲ譲渡シ又ハ消費シタルトキハ其ノ代金ヲ追徴ス
- 第九十六条 第十条第三項若ハ第十一条ノ規定ニ違背シタル者又ハ第七十二条若ハ第七十四条第一項ノ命令ニ従ハサル者ハ二百円以下ノ罰金ニ處ス
- 第九十七条 第四十四条若ハ第四十五条第二項ノ規定ニ違背シタル者、第四十五条第一項若ハ第七十三条第一項ノ命令ニ従ハサル者又ハ第七十九条若ハ第八十条ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違背シタル者ハ百五十円以下ノ罰金ニ處ス
- 第九十八条 第四十六条乃至第四十八条、第七十六条又ハ第七十八条ノ規定ニ違背シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ處ス
- 第九十九条 第五十三条第一項ノ許可ヲ受ケスシテ障碍物ヲ除却シタル者又ハ第七十五条ノ規定ニ違背シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ處ス
当該官吏ニ対シテ鉱業ニ関スル書類若ハ物件ノ検査ヲ拒ミ又ハ之ヲ妨ケタル者ハ罰前項ニ同シ 但シ其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル - 第百条 第七十七条ノ規定ニ違背シタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ處ス
- 第百一条 詐偽其ノ他不正ノ所為ヲ以テ鉱業税ヲ免レ又ハ免レムトシタル者ハ其ノ脱税金額三倍ニ相当スル罰金ニ處ス
- 第百二条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違背シタル者ニハ刑法ノ減軽、再犯加重及数罪倶発ノ例ヲ用ヰス
- 第百三条 鉱業権者カ未成年又ハ禁治産者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ鉱業権者ニ適用スへキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス 但シ鉱業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
- 第百四条 鉱業権者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ニシテ其ノ業務ニ関シ本法ヲ犯シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ本法ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ス
本法ニ基キテ発スル命令中別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外其ノ命令ニ規定セル罰則ニ付テモ亦同シ - 第百五条 前二条ノ場合ニ於テハ禁錮又ハ拘留ノ刑ニ處スルコトヲ得ス
- 第百六条 明治三十三年法律第五十二號ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用スル
- 附則
- 第百七条 本法ハ明治三十八年七月一日ヨリ之ヲ施行ス
鉱業条例ハ之ヲ廃止ス - 第百八条 鉱業条例ニ依ル試掘ノ認可ハ試掘権ノ登録ト看做ス
- 第百九条 日本坑法ニ依ル借区ノ許可及鉱業条例ニ依ル採掘ノ特許ハ採掘権ノ登録ト看做ス 但シ鉱業条例第四十一条第二項ニ定メタル面積ニ満タサル鉱区ニ対スルモノハ其ノ期限ノ到来ニ因リテ消滅ス
- 第百十条 本法施行前ニ於ケル官庁所属ノ採掘区域ハ採掘鉱区トシ本法施行ノ日ニ於テ採掘権ノ登録ヲ得タルモノト看做ス
- 第百十一条 鉱業条例ニ依ル採掘権ノ書入ノ登録ハ抵当権ノ登録ト看做ス
- 第百十二条 第七十四条ノ規定ハ本法施行前ニ試掘認可又ハ採掘特許ノ消滅シタル場合ニモ之ヲ適用ス 但シ一箇年ノ期間ハ其ノ消滅ノ日ヨリ之ヲ起算ス
- 第百十三条 日本坑法ニ依リ借区ノ許可ヲ得タル者及鉱業条例ニ依リ試掘ノ認可又ハ採掘ノ特許ヲ得タル者ハ本法施行ノ日ヨリ六十日以内ニ明治三十八年分ノ鉱区税又ハ其ノ不足額ヲ納付スへシ 其ノ鉱区税ハ月割ヲ以テ計算ス
- 第百十四条 明治三十八年分ノ鉱産税ハ本法施行前ニ得タル鉱産物ニ付テモ之ヲ課ス
- 第百十五条 第八十八条ノ規定ハ明治三十八年度分ノ税ニ限リ之ヲ適用ス
- 第百十六条 鉱業条例ニ依リテ為シタル處分、手續其ノ他ノ行為ハ本法中之ニ相当スル規定アル場合ニ於テハ本法ニ依リテ之ヲ為シタルモノト看做ス
- 第百十七条 本法施行前ニ為シタル處分ニ対スル訴願、裁定請求、行政訴訟又ハ民事訴訟ニ関シテハ鉱業条例ノ規定ニ依ル
- 第百十八条 鉱業条例ニ依リ試掘又ハ採掘ヲ出願シタル鉱区ノ面積ニ付テハ鉱業条例第四十一条第二項ノ規定ヲ適用ス
- 第百十九条 明治三十七年十二月三十一日以前ヨリ引續キ重石鉱又ハ水鉛鉱ヲ掘採スル者ニシテ明治三十八年七月三十一日迄ニ其ノ鉱物採掘ノ特許ヲ出願スルトキハ其ノ掘採区域ニ限リ第三十一条、第三十三条及鉱区ノ面積ニ関スル第九条ノ規定ニ拘ラス特許ヲ與フへシ
前項ノ掘採者ニシテ明治三十八年七月三十一日迄ニ其ノ特許ヲ出願シタル者ハ其ノ指令ノ日迄本法ノ規定ニ拘ラス其ノ掘採ヲ継續スルコトヲ得
第一項ノ規定ニ依リ特許ヲ得タル区域ノ面積五千坪未満ナル場合ニ於テハ其ノ特許ハ五箇年ヲ経過シタルトキ消滅ス