史料 茨城県内炭礦事情
1958年炭礦会社の現況
史料『県内炭鉱事情』が扱っている1958年(昭和33)は、出炭高は増減を繰り返しながらも拡大を遂げているさなかにあった。ピークはそれから8年後の1966年、以後減少していく。一方、従業者数のピークはそれよりはやく1957年の1万348人。ここで指摘された合理化(機械化)や輸入エネルギー(石油)の増大は、経営にとって閉山まで避けようのない基本的な制約として残った。
史料について
- ◦史料名:県内炭鉱事情
- ◦出版者:日立労政事務所
- ◦発行年:1958年(昭和33)7月
- ◦判型等:B5判
- ◦形態:謄写版刷
- ◦所蔵:茨城県立図書館
『県内炭鉱事情』の内容細目
1.沿革 |
2.現況 |
3.出炭、送炭の推移 |
4.鉱業所および従業員の推移 |
5.企業の現況 |
6.労働事情 |
附表 |
1.茨城炭田炭鉱分布図 |
2.日本における炭田発見年代表 |
3.全国常磐出炭売価変遷一覧表 |
4.県内炭鉱、労組一覧 |
5.昭和33年労働争議状況調 |
6.昭和33年春季賃上げ及び夏季手当要求妥結状況 |
本項では、上記の内容細目に示した目次のうち太字で示した「5.企業の現況」と「附表4.県内炭鉱、労組一覧」を紹介する。
企業の概況
昨年春の金融引締を契機として、世界的景気の後退も災いし不況の波は流通段階を経て、生産面に波及し、化繊界をはじめとし、製造業界に操短と整理が余儀なくされており、これに伴い石炭鉱業界にも遅ればせながら消費の減退となってしわ寄せせられ既に現在に於て貯炭状況は全国で約900万噸を超えるとも云われている。
而も年明けの荷捌き急減からみて、今后業者貯炭は尚一層増加を辿るものと憂慮されている。(国内炭の1カ月消費量約450万噸)
殊に石炭の競争燃料と云われる重油の最近に於ける大幅な値下りと在庫状況から、今后における石炭の需給と炭価に大きな影響を与えるものと予想され、元来常磐炭の低品位とコスト高な点は、不況に敏感なだけに成り行きは注目されている。
ちなみに、管内炭鉱に於る5月〜6月の前年との状況を比較してみると、
(イ)出炭前年比
出炭状況については、前年5月〜6月平均134,300噸と約10%の出炭減となっており、自然操短の形となって現れている。
(ロ)貯炭前年比
なを、貯炭状況は、前年6月末10,790噸に対し、本年同期は、52,792噸と約42,000噸の大幅な貯炭増をきたして戦后最高を示めしている。
(ハ)実働従業員の現況
また、実働従業員の状況も昭和33年5月末現在の8,904名に対し、6月末に於ては8,789名と115名の減少をみ、これらの事実から予測されるように炭況の不振は夏枯れ期(7月〜8月)に入り一層貯炭の累増を余儀なくされ、人員整理等今后に相当困難が伴うものと予想されている。
(ニ)賃金の遅、欠配状況
管内炭鉱の賃金の遅欠配状況については、現在までのところ、未だ表面化していないが人員整理については、一部炭鉱に於て季節夫、臨時夫を対象とする若干の整理が行われている状況であるが、常傭鉱員には及んでいない。
しかし7月30日に於ける石炭鉱業審議会で決定をみた本年度実施計画によれば、今后5%の時縮操短は余儀ないものとされており、また、これらに伴う一時帰休制の問題が中小炭鉱に不況対策の一環として、労働省に於て認めるところとなり、さる7月10日付で各都道府県知事あてに「石炭鉱業の生産調整に伴う離職者に対する失業保険の取扱について」の通牒が出されているが、夏枯れ期を前にして特に注目すべきものがある。
(ホ)生産性について
生産性の向上については、一部炭鉱に於てホーベルの導入等機械化による企業の合理化に力を入れコストの引下げに努力しつつあるが、これも比較的大きな、常磐、高萩、向洋、大日本等で、それ以下の零細炭鉱に於ては、輸送面の合理化と保安関係の改善が精一杯と見られている現況にある。
(へ)今後の見透しと対策
政府は、33年下期における不況対策として輸入エネルギーの抑制方針並に綜合雇用政策について具体案を示しているが、ともあれ、下期の重油の抑制は当面の炭況不振対策としてもっとも効果的措置とされ、今後における重要な課題となっている。
東部石炭協会に於いても特にこの点関心を示めして成り行きを注目しているが、低品位炭についても現在の常磐火力発電所75,000KW(月平均30,000頓消化)を来年度に倍の150,000KWに増設、月平均60,000噸の消化を期すべく対策を講じている。
なを、送炭の大半を占める関東地区の市場開拓には益々重要性が加味されている。
県内炭鉱、労組一覧 1958年7月1日現在
この表は、労働組合の概要が知られるだけでなく、この時期における経営別に組合員数・賃金・出炭量が一覧できる数少ない史料として紹介する。
各炭鉱は、上部団体別に分けられている。
宇部興産労組向洋支部以下6礦が所属する磐炭労は日本炭鉱労働組合(炭労)の地方組織である常磐地方本部のことである。
常磐茨城労働組合以下が所属する常炭礦は全国石炭鉱業労働組合(全炭鉱)の地方組織である常磐地方本部のこと。炭労から分離し、1954年(昭和29)9月結成された。
中立とされる組合はいずれも職員組合である。
未組織とされる労働組合がない炭礦が8礦。いずれも従業員規模50人以下の炭礦である。
閉鎖炭鉱としてあげられている山口炭鉱以下6炭鉱は、石炭鉱業合理化臨時措置法(1955年9月施行)にもとづいて閉山したもの。この法律にもとづいて閉鎖した炭鉱の一覧は、こちら。
なお、表内の賃金欄の数値単位は、史料に記載はないが、日給で円である。また同様に出炭量は年産である。
上部団体 | 磐炭労[1] | |||||
組合名 | 宇部興産労組向洋支部 | 高萩炭礦労働組合 | 日本炭礦労組重内支部 | 常磐合同炭礦労組 | 秋山炭礦労組 | |
事業所名 | 宇部興産向洋鉱業所 | 高萩炭礦高萩鉱業所 | 重内炭礦重内鉱業所 | 常磐合同華川鉱業所 | 秋山炭礦株式会社 | |
所在地 | 高萩市島名 | 高萩市高萩 | 北茨城市大塚 | 北茨城市華川 | 多賀郡十王町 | |
組合員数 | 男 669 女 31 計 700 |
567 33 600 |
592 60 652 |
179 11 190 |
23 — 23 |
|
賃 金 | 坑内 660.50 坑外 583.50 |
574 372 |
512 326 |
506 316 |
465 336 |
|
出炭量 | 5万7千噸 | 20万噸 | 12万噸 | 3万6千噸 | 1万2千噸 | |
上部団体 | 磐炭労 | 計 | ||||
組合名 | 須藤炭礦 | |||||
事業所名 | 須藤炭礦株式会社 | |||||
所在地 | 北茨城市磯原 | |||||
組合員数 | 男 148 女 18 計 164 |
2176 153 2329 |
||||
賃 金 | 坑内 504 坑外 314 |
|||||
出炭量 | 4万1千噸 | 46万6千噸 | ||||
上部団体 | 常炭礦[2] | |||||
組合名 | 常磐茨城労働組合 | 大日本炭礦磯原支部 | 関本炭礦労働組合 | 全炭礦 俵支部 | ||
事業所名 | 常磐茨城礦業所 | 常磐茨城神ノ山礦業所 | 大日本炭礦磯原礦業所 | 関本炭礦株式会社 | 俵炭礦株式会社 | |
所在地 | 北茨城市中郷 | 北茨城市関本 | 北茨城市華川 | 北茨城市関本 | 北茨城市磯原 | |
組合員数 | 男 3046 女 111 計 3157 |
481 9 490 |
302 26 328 |
196 16 206 |
||
賃 金 | 先山 794.37 後山 575.83 坑外 484.24 |
坑内 620 坑外 380 |
617 407 |
500 310 |
||
出炭量 | 30万噸 | 24万噸 | 14万噸 | 6万噸 | 5万4千噸 | |
上部団体 | 常炭礦 | |||||
組合名 | 全炭礦 十王支部 | 全炭礦 望海支部 | 全炭礦 櫛形支部 | 多賀炭礦労働組合 | 大津港炭礦々員労組 | |
事業所名 | 俵炭礦十王礦業所 | 望海炭礦株式会社 | 高萩炭礦櫛形礦業所 | 多賀炭礦株式会社 | 大津港炭礦株式会社 | |
所在地 | 多賀郡十王町 | 高萩市上手綱 | 多賀郡十王町 | 北茨城市中郷 | 北茨城市関本 | |
組合員数 | 男 200 女 13 計 213 |
79 7 86 |
459 51 510 |
194 6 200 |
31 5 36 |
|
賃 金 | 坑内 480 坑外 305 |
546 348 |
611 399 |
555 396 |
470 285 |
|
出炭量 | 3万噸 | 3万3千噸 | 7万6千噸 | 4万6千噸 | 6千噸 | |
上部団体 | 常炭礦 | 計 | ||||
組合名 | 近藤炭礦労働組合 | 杉本炭礦労働組合 | ||||
事業所名 | 近藤炭礦 | 杉本炭礦株式会社 | ||||
所在地 | 北茨城市華川 | 北茨城市華川 | ||||
組合員数 | 男 10 女 5 計 15 |
125 15 140 |
5,117 264 5,381 |
|||
賃 金 | — — |
— — |
||||
出炭量 | 1千噸 | 3万3千噸 | 101万9千噸 | |||
上部団体 | 中 立 | |||||
組合名 | 関本炭礦職員組合 | 茨城炭礦職員組合 | 重内炭礦職員組合 | 高萩炭礦職員組合 | 櫛形炭礦職員組合 | |
事業所名 | ||||||
所在地 | ||||||
組合員数 | 男 57 女 1 計 58 |
149 — 149 |
57 11 68 |
76 — 76 |
41 — 41 |
|
賃 金 | ||||||
出炭量 | ||||||
上部団体 | 中 立 | 計 | 合計 | |||
組合名 | 宇部興産職組向洋支部 | |||||
事業所名 | ||||||
所在地 | ||||||
組合員数 | 男 47 女 2 計 49 |
427 14 441 |
7720 431 8151 |
|||
賃 金 | ||||||
出炭量 | ||||||
上部団体 | 未組織 | |||||
組合名 | ||||||
事業所名 | 松野炭礦株式会社 | 市村炭礦株式会社 | 上田炭礦株式会社 | 柿ノ沢炭礦 | 鈴木炭礦 | |
所在地 | 北茨城市華川 | 北茨城市磯原 | 北茨城市中郷 | 北茨城市関本 | 北茨城市華川 | |
組合員数 | 男 25 女 計 25 |
20 25 |
38 38 |
25 25 |
43 43 |
|
賃 金 | ||||||
出炭量 | 1千5百噸 | 3千2百噸 | 9千6百噸 | 1千噸 | 6千6百噸 | |
上部団体 | 未組織 | 計 | ||||
組合名 | ||||||
事業所名 | 峯岸炭礦 | 長ノ沢炭礦 | 丸富炭礦 | |||
所在地 | 北茨城市華川 | 北茨城市関本 | 北茨城市磯原 | |||
組合員数 | 男 13 女 計 13 |
31 31 |
15 15 |
|||
賃 金 | ||||||
出炭量 | 2千噸 | 5千4百噸 | 1千2百噸 | 3万7百噸 | ||
上部団体 | 閉鎖炭礦 | |||||
組合名 | 山口炭礦労働組合 | 山部炭礦労働組合 | ||||
事業所名 | 山口炭礦株式会社 | 新杉本炭礦 | 山部炭礦株式会社 | 東亞炭礦株式会社 | 上田炭礦 | |
所在地 | 北茨城市磯原 | 北茨城市華川 | 多賀郡十王町 | 北茨城市磯原 | 北茨城市磯原 | |
組合員数 | (260) | (43) | (27) | (65) | (106) | |
賃 金 | 昭32.3月閉鎖 | 昭30.3月閉鎖 | 昭33.4月閉鎖 | 昭29.5月閉鎖 | 昭30.2月閉鎖 | |
出炭量 | ||||||
上部団体 | 閉鎖炭礦 | 総 計 | ||||
組合名 | ||||||
事業所名 | 常葉炭礦 | |||||
所在地 | 北茨城市磯原 | |||||
組合員数 | (28) | 男 7930 女 431 計 8361 |
||||
賃 金 | 昭30.6月閉鎖 | |||||
出炭量 | 151万5千7百噸 | |||||
参考文献
- 『新聞記事にみる茨城地域の炭鉱と社会 昭和編3』