史料 高萩炭礦閉山に伴う組合要求書と協定書 1967年

高萩炭礦(株)が経営する高萩炭礦(所在地は茨城県高萩市高萩)は1967年(昭和42)5月終掘し、8月14日に閉山となる。会社の閉山提案については こちら(史料 高萩炭礦閉山提案書) を参照。

閉山提案書、組合要求書、協定書ともに、閉山にともない従業者を転礦者として大きく二つに分ける。最初に記載されるのは退職者「転礦者(退職者)」で、つぎに社内の櫛形炭礦などへの転職者「転礦者(櫛形礦)」である。

会社側の提案、労組の要求、そして合意の三つを比較検討は、別の機会に行うこととし、ここでは材料の提供にとどめておくが、末尾の協定附属諒解事項を含めると、現在の印象でいうなら労働側の要求はほぼ満たされているように思われる。

本項では、閉山条件に関する組合の要求書と合意がなって作成された協定書を対比できるよう右と左に並べて表示した。


史料について

[本文]

要 求 書

協 定 書

1.転礦者(退職者)の取扱い   1.転礦者(退職者)の取扱い  
(1)退職条件 (1)退職条件
  • ①退職手当
  • ア 退職手当規定「事業上都合による解雇」を適用する。
  • イ 基礎日額は昭和41年11月18日付の鉱員退職手当規定確認書を適用する。
  • ①退職手当
    退職手当規程「事業上都合による解雇」を適用する。
  • ②閉山特別加給金
  • ア 25年以上勤続者一律6万円を支給する
  • イ 20年   〃   5万円  〃
  • ウ 15年   〃   4万円  〃
  • エ 10年   〃   3万円  〃
  • オ 5年   〃   2万円  〃
  • カ 5年未満 〃   1万円  〃
③予告手当見合額
本人平均賃金の1ヵ月分相当額を支給する。
②予告手当見合額
合理化事業団より支給の離職金を充当する(平均賃金の1ヵ月分)
④期末手当見合額
一律3万円を支給する。
  • ⑤年次有給休暇の残日数は買上げ支給する。
  • ③年次有給休暇の取扱い
  • ア 5月末における年次有給休暇の残日数は買上げ支給する。
  • イ 6月1日より8月末までの年次有給休暇は月割計算(四捨五入)で支給する。
⑥身体障害者見舞金
ア 3級以上の者   10万円
イ 4級より8級までの者   5万円
④身体障害者見舞金
ア 五級以上の者   5万円
イ 六級より八級までの者   3万円
⑦殉職者遺族見舞金
従業員として在山する遺族1名に限り3万円
⑤殉職者遺族見舞金
従業員として在山する遺族1名に限り3万円
  • ⑧停年間近な者に対する措置
  • ア 昭和42年5月末までの停年者については従前通りの取扱いとする。
  • イ 6月1日以降の退職者については本協定を準用する。
⑨転職及び帰郷旅費
昭和42年11月末までの転職及び帰郷者に対し
  • (ア)本人及び扶養家族の旅費実費及び弁当代を支給する。
  • (イ)荷物運送費(保険料を含む)実費を支給する。
⑥転職及び帰郷旅費
昭和42年11月末までの転職及び帰郷者に対し
  • ア 本人及び扶養家族の旅費実費及び弁当代を支給する。
  • イ 荷物運送費(最高限度1万円)を支給する。
    但し、第二種移住資金該当は適用しない。
  • ⑩福利厚生施設の利用
  • ア 閉山後6ヵ月間は従来通り社宅の使用を認める。
  •  但し、職業訓練入所者については1ヵ年使用を認める。
  • イ 電気料金、水道、浴場、塵芥糞尿処理、理髪所、美容室、幼稚園等は閉山後6ヵ月は従来通りとし、その後の取扱いについては、別に定める委員会において協議する。
  • ウ サービスセンター及び第一診療所は存続させる。
  • エ 住宅難を解消するため可能な範中において、土地、建家を廉価で分譲する。
  • ⑦福利厚生施設の利用
  • ア 閉山後6ヵ月間は従来通り社宅の使用を認める。
  • 但し、職業訓練入所者については原則として閉山後1ヵ年使用を認める。
  • イ 電気料金、水道、浴場、塵芥糞尿処理、理髪所、美容室は閉山後6ヵ月従来通りとし、その後の取扱いについては、別に定める委員会に於て協議する。
  • ウ サービスセンター及び第一診療所は存続させる。
  • エ 住宅難を解消するため、可能な範中に於て、土地、建家の分譲について別途協議する。
  • ⑪4月以降の賃金取扱いについて
  • ア 4月以降櫛形鉱の賃金水準の改訂があった場合はその基準に準じて取扱いをする。
  • イ 6月以降撤収要員の賃金取扱いについては別途協議する。
  • ⑧4月以降の賃金取扱いについて
  • ア 4月以降、櫛形礦の賃金水準の改訂があった場合はその基準に準じて取扱いをする。
  • イ 6月以降、撤収要員の賃金収扱いについては別途協議する。
⑫業務上負傷者の取扱いは法の定むるところにより善処する。 ⑨業務上負傷者の取扱いは法の定むるところにより善処する。
  • ⑬別居見舞金
  • ア 京浜地区の関連企業に就職する者の中、本人の都合によらず止むを得ず別居する場合は、留守宅見舞金として月額5,000円を支給する。
  • イ 就職先に於て支給される場合、又は本人の一方的意志により別居する場合は適用しない。
  • ⑩別居見舞金
    京浜地区の関連企業に就職する者については、留守宅見舞金を就職先に於て支給されるよう努力する。
⑭転職業務を円滑に推進するため、必要相当期間労使代表の構成による就職斡旋促進委員会を設ける。その必要経費は会社負担とする。 ⑪転職業務を円滑に推進するため閉山後6ヵ月間、労使代表の構成による就職斡せん促進委員会を設ける。その必要経費は会社負担とする。
⑮在籍鉱員(組合員)以外の従業員(職員、組夫を除く)の退職取扱いについても極力努力して善処する。 ⑫在籍礦員(組合員)以外の従業員(職員、組夫を除く)の退職収扱いについても極力努力して善処する。
⑯本要求事項以外に交渉過程において関連する問題が発生した場合は、その都度協議決定する。 ⑬本協定事項に関連する問題が発生した場合は、その都度協議決定する。
2.転礦者(櫛形礦)の取扱い 2.転礦者(櫛形礦)の取扱い
(1)転礦条件 (1)転礦条件
  • ①転礦範囲
  • ア 直接員は勿論のこと間接坑外員においても希望者は最大限転礦する。
  • イ 身分取扱いは在籍鉱員とする。
  • ①転礦範囲
  • ア 直接員及び間接、坑外員は必要人員を転礦する。
  • イ 身分取扱いは在籍礦員とする。
  • ②転礦者の退職金の取扱い
  • ア 転職者の退職条件「1、5」の取扱いとする。
  • ②転礦者の退職金の取扱い
    退職手当規程「事業上都合による解雇」を適用する。
  • ③転礦料
  • ア 直接員(採炭、掘進、支柱)
               一律50万円
  • イ 間接員        〃 4万円
  • ウ 坑外員        〃 3万円
    ③年次有給休暇の取扱い
  • ア 5月末における年次有給休暇の残日数は買上支給する。
  • イ 6月1日より8月末までは、月割計算(四捨五入)により支給すると共に9月以降は一律6日を支給する。
    ④転礦有給休暇
  • ア 転礦のための、ケ処見、保安教育のため有給休暇2日を与える。
  • ④転礦有給休暇
    転礦のための、ケ処見、保安教育のため、有給休暇2日を与える。
  • ⑤転礦者の賃金及び歩立
  • ア 転礦後ニヵ月分は過去3ヵ月、又は6ヵ月のいづれか高い方の実績本人給を個別に保証する。その後は櫛形鉱の歩立(本人給)のあり方及び本人の2ヵ月間の実績を勘案して公平を旨として決定する。
  • ⑤転礦後2ヵ月分は過去3ヵ月の実績本人給を個別に保証する。その後は櫛形鉱の歩立(本人給)のあり方及び本人の2ヵ月間の実績を勘案して公平を旨として決定する。
⑥転礦予定者の4月以降賃金の取扱い及び、期末手当支給額は櫛形鉱同等の取扱いをする。 ⑥転礦予定者の4月以降賃金については櫛形鉱と同等の取扱いをする。
  • ⑦転宅引越手当及び休暇
  • ア 転宅手当として一世帯当り一万円を支給する。
  • イ 単身者の場合は3,000円を支給する。
  • ウ 転宅有給休暇世帯主2日、単身者1日を支給する。
  • ⑦転宅引越手当及び休暇
  • ア 転宅手当として一世帯当り、7,000円を支給する。
  • イ 単身者の場合は2,000円を支給する。
  • ウ 転宅有給休暇世帯主2日、単身者1日を支給する。
⑧通勤手当、バス輸送による通勤期間(出向期間を含む)月額1,000円を支給する。 ⑧通勤手当、パス輸送による通勤期間(出向期間を含む)、月額(操業日の二方欠1,000円、四方欠800円、六方欠500円)を支給する。
⑨閉山後6ヵ月経過以降の通勤者に対する福利厚生手当は、櫛形鉱居住者と差別のないよう別途手当を支給する。 ⑨閉山後6ヵ月経過以降の通勤者に対する福利厚生手当は櫛形鉱居住者と差別のないよう別途手当を支給する。
⑩転礦の期日及び職種については別途協議決定する。 ⑩転礦の期日及び転種については別途協議決定する。
⑪櫛形礦転礦後における職場環境、生活環境等の変化により物心両面の負担に対しては、会社は責任を以って最善の努力をして懇切丁寧に指導する。 ⑪櫛形鉱転礦後における職場環境、生活環境等の変化により、物心両面の負担に対しては会社は責任を以って最善の努力をして懇切丁寧に指導する。
⑫その他、先発出向者等転礦に関連する諸問題が発生した場合は、会社は誠意をもって別途協議決定する。 ⑫その他、先発出向者等転礦に関連する諸問題が発生した場合は、会社は誠意をもって別途協議決定する。
3.高萩礦終掘酒肴料として、会社は組合に対して一括20万円を支給する。 3.高萩礦終掘酒肴料として会社は組合に対して一括20万円を支給する。
4.1の(1)①②③④⑤⑥⑦及び2の(1)②③は閉山後1ヵ月以内にー括支給する。
その他の各項はその必要の発生時点において支給する。
但し、3の酒肴料は7月末まで支給する。
4.(1)1の(1)①②③④⑤は交付金交付後1ヵ月以内に50%、残50%は退山時支給する。
(2)2の(1)②の支払方法は諒解事項にもとずき支給する。
(3)その他の各項はその必要の発生時点において支給する。
但し、3の酒肴料は7月末までに支給する。
5.退職金の勤続年数の締切期日は、昭和42年5月31日とするが、閉山期日は8月31日とする。 5.退職金の勤続年数の締切期日は昭和42年5月31日とするが、閉山期日は8月31日とする。
6.閉山期日前の退職者は労使が認めた者以外は本協定を適用しない。
昭和42年3月 日
高萩炭礦株式会社代表  夏原喜三郎
日本炭礦労働組合
常磐地方本部事務局長  高橋 理市
高萩炭礦労働組合組合長 大久保 清

協定附属諒解事項

  • 1.本協定退職手当の基礎日額は昭和41年11月18日付の鉱員退職手当規程確認書を適用する。
  • 2.特別加給金の支給については、要求の主旨を理解するが支払源資については、社長個人において、今後の生産撤収作業の実績(出炭3月以降5万トン撤収遂行率100%を目途)を勘案して別途支給する。
  • 3.転礦者の退職金の支払方法は交付金交付後1ヵ以内に40%、残額は43年以降毎年9月末20%宛支給する(分割支払に対しては年利5分相当額を加給する)
  •  但し、前二項の趣旨にそい、その成果の認められた時は、最終支払を44年9月末に短縮する。
  • 4.期末手当見合額については、前期支給額(26,300円)を支給する配分については別途協議決定する。
  • 5.転礦者の転礦料は直接員5万円、間接員4万円、坑外成人員3万円を支給する。
  •  但し、閉山後1ヵ年以内に退職した場合は返戻するものとする。
  • 6.櫛形礦転礦者についても離職金を支給されるようにする。
    [手書きで「300日分」が挿入]
                   以上
  • 昭和42年3月 日
    高萩炭礦株式会社代表  夏原喜三郎
    日本炭鉱労働組合
    常磐地方本部事務局長  高橋 理市
    高萩炭礦労働組合組合長 大久保 清

確認書

礦員退職手当規程に関し次の通り確認する。
  •    記
  • 1.健保日額の名称を退職手当基礎日額と改める。
  • 2.停年退職者、業務上死亡及び業務外死亡退職者の場合に限り現行退職手当規程に拘らず次のように取扱う。
  • (1)基礎賃金は基礎日額の85%とする。
  • (2)最高基礎日額は直接員1,200円(健保日額20級相当額)、その他礦員1,100円(健保日額19級相当額)とする。
  • 3.本協定の有効期間は昭和41年11月1日より昭和42年9月30日までとする。
  •  昭和41年11月18日
    会社代表 高萩礦業所長 夏原喜三郎
    組合代表 磐炭労事務局長 高橋理市
    組合代表 高萩炭礦労働組合長 大久保清