史料 櫛形炭礦閉山にともなう従業員の再就職
櫛形炭礦(高萩炭礦株式会社経営。所在は茨城県多賀郡十王町—現日立市)は1973年(昭和48)1月に閉山となる。その閉山にあたって従業員のひとりは次のように語る。
それから、私としては閉山したときに圧倒的に年齢も高いし、地元就職希望が多いので、会社の社有地を従業員に分譲させていただきました。私は分譲地に入れませんでしたが、七、八〇名が労働組合と会社が協定した社有地の分譲地に定着しましたね。その子供達は日製、お父さんは町工場へと入りましてね、閉山後はですね。たまたまオイルショック前でしたから、就職率も一〇〇パーセント、恵まれて再就職のスタートをきることができました。
今は、家内が中心になって縫製工場をやってまして、私は地質調査の方を何人かと一緒に、まあ、元の炭礦の仲間と一緒にその仕事をやらせてもらっております。……
新井隆「戦後の櫛形炭礦と労働組合運動」(聞きとりは1983年4月10日)より
炭礦の社会史研究会編『聞きがたり 茨城の炭礦に生きた人たち』所収
この語りに関連する史料(出典はいずれも十王町役場所蔵綴文書)を紹介する。
なお閉山時の櫛形炭礦の概要については、こちら 史料 櫛形炭鉱概況 を参照されたい。
1 櫛形炭礦離職者アンケート結果
櫛形鉱離職者再就職のためのアンケート結果集計表
高萩公共職業安定所
アンケート票配布枚数 555枚(但し鉱員のみを対象)
回収枚数 293枚
回収率 52.8%
アンケート
1.再就職をする場合の条件について
イ どうしても地元に残って通勤できる所に就職したい。(218名 74.4%)
ロ 条件が合えば地元でなくとも県内県外どこでもよい。
その場合 A できれば県内がよい。(58名 19.8%)
B 県外でもよい。(17名 5.8%)
希望する県名(神奈川県、東京都、宮城県、県に関係な
し 各1名)
2.再就職する前に職業訓練を受ける希望がありますか。
あり(80名 27.3%) ないまたは回答なし(213名 72.7%)
3.再就職後の最低月収はいくら位い希望しますか。
イ.4万円未満(5名 1.7%) ロ.4万〜5万円(21名 7.2%)
ハ.5万〜6万円(24名 8.2%) ニ.6万〜7万円(64名 21.8%)
ホ.7万〜8万円(179名 61.1%)
4.再就職にあたって関係者に一番お願いしたい事を一つだけ具体的に書いて下さい。
自動車の免許をとりたい(2名)
仕事になれるまで親切にしてほしい(2名)
出勤が早くとも退勤の早い所
住宅に配慮してほしい(10名)
手取り8万円以上
通勤できないときは安心して働ける職場
自分の経験を生かしたい(3名)
炭鉱夫に適した仕事
健全な会社に就職したい(2名)
鉱夫の経験しかないのでやさしい仕事(2名)
永続性のある職
老齢のため気楽にできる仕事
関連会社に就職したい(3名)
自分の性格にあった会社
中高年齢者に力を入れて斡旋してほしい
女でもできる会社を設立してほしい
屋内軽作業
炭鉱年金をとりたいので近くに炭鉱があれば入りたい
都合により出稼ぎでもよい
誠実な会社(2名)
組合のある会社
送り迎えする会社
年齢のみで差別しないでほしい
2 櫛形炭礦関係対象受理求人調
1972年12月20日〜73年1月22日
受理求人数 男 | 同 女 | 計 | 企業別件数 | |
県 内 | ||||
水戸 | 12 | - | 12 | 1 |
日立 | 216 | 20 | 236 | 26 |
下館 | 34 | - | 34 | 2 |
水海道 | 4 | - | 4 | 2 |
龍ヶ崎 | 5 | - | 5 | 1 |
高萩 | 15 | 7 | 22 | 3 |
計 | 286 | 27 | 313 | 35 |
(主な企業) | ||||
助川電気工業(株) 日立市 20名 富士工業所 日立市 25名 | ||||
逢賀産業(株) 日立市 37名 大川電気製作所 日立市 20名 | ||||
日本加工紙(株) 勝田市 12名 | ||||
(主たる職種別賃金) | ||||
捲線・組線・組立・検査 最低 45,000〜最高 48,000 | ||||
製缶・機械・メッキ工 54,000 〜 72,000 | ||||
工務関係事務員 55,000 〜 62,800 | ||||
機械工 70,000 〜 90,000 | ||||
製紙加工作業員 45,000 〜 60,000 | ||||
ロール工見習 77,900 〜 78,200 | ||||
県 外 | ||||
東京 | 296 | 1 | 297 | 25 |
千葉 | 53 | - | 53 | 8 |
埼玉 | 97 | - | 97 | 8 |
神奈川 | 807 | - | 807 | 40 |
静岡 | 42 | - | 42 | 5 |
愛知 | 40 | - | 40 | 3 |
大阪 | 145 | - | 145 | 18 |
計 | 1,480 | 1 | 1,481 | 107 |
(主な企業) | ||||
三菱製紙(株) 東京 日軽アルミ 東京 | ||||
本所自動車 東京 山崎製パン 東京 | ||||
富士急不動産 東京 日産自動車(株) 東京 | ||||
理研ビニール 東京 岡崎工業(株) 千葉 | ||||
原田工業所 神奈川 日東タイヤ(株) 神奈川 | ||||
日産工機(株) 神奈川 | ||||
(主たる職種別賃金) | ||||
タイヤ製造工 最低 68,700〜最高 95,900 | ||||
プレス工 64,500 〜 78,000 | ||||
鍛造工 99,900 〜 99,900 | ||||
自動車製造工 46,700 〜 78,300 | ||||
警備員 58,700 〜 75,000 | ||||
溶接工 63,300 〜 77,500 | ||||
土工 63,300 〜 77,500 | ||||
機械取付工 63,300 〜 77,500 | ||||
バネ工 57,000 〜 75,000 | ||||
電工 27,000 〜 79,900 | ||||
組立工 53,000 〜 74,800 | ||||
成型工 79,000 〜 79,000 | ||||
面取工 37,400 〜 52,500 | ||||
塗装工 83,000 〜 87,000 |
3 櫛形炭礦従業員年齢構成 1972年11月末現在
年齢区分 | 人員(人) | 構成比率(%) |
20歳以下 | 3 | 0.5 |
20〜30 | 11 | 1.8 |
31〜40 | 136 | 21.9 |
41〜50 | 317 | 51.1 |
51〜60 | 144 | 23.2 |
60歳以上 | 9 | 1.5 |
計 | 620 | 100 |
4 櫛形炭礦従業員賃金 1972年10月分
職 種 | 出勤日数 | 基準内賃金 | 基準外賃金 | 計(月収) |
職員 | ||||
坑内 | 22.6 | 76,587 | 16,205 | 87,792 |
坑外 | 24.0 | 69,662 | 13,950 | 83,612 |
女子 | 24.2 | 35,900 | 5,391 | 41,291 |
計 | 23.3 | 66,422 | 13,976 | 80,398 |
鉱員 | ||||
坑内 | 21.6 | 63,926 | 22,799 | 86,725 |
坑外 | 23.5 | 44,670 | 26,496 | 71,166 |
臨時 | 21.5 | 81,652 | 16,459 | 98,111 |
計 | 22.1 | 64,560 | 21,027 | 85,587 |