史料 日立製作所徒弟規程
日立製作所徒弟養成所
徒弟養成所は1910年4月に「創設を計画し、工場の見習工36名を、この徒弟に編入し、助川宿(高鈴村大字助川)皆川館を宿舎にあて、工場内に教室を設けて、学科および実習の教育をはじめた。翌年4月、650余坪の敷地に251坪余の平屋建寄宿舎および付属建家が落成したが、この年新たに県下および近県より徒弟を募集」した(『日立工場五十年史』)。日工同窓会が発行した『われら日立の底流たらん』(1987年刊)に詳しい。
史料について
- ◦本史料は、左合藤三郎さんが所蔵し、筆写した「鉱夫待遇施設視察報告書」の内日立鉱山にかかわる部分(日立鉱山鉱夫待遇施設視察報告書)に附録として収録されているものである。
- ◦この規程の制定時期は末尾に記載がなく不詳である。しかし徒弟募集をはじめた1911年には作成されていたものと考えられる。
- ◦この報告のもとになった視察時期は、1918年(大正7)2月であるので、「徒弟規則」はこの時期のものであろう。
凡例
- ◦翻刻にあたって、縦書きを横書きに、原文のカタカナは「ひらかな」に、漢字の多くを常用漢字にあらため、適宜読点を入れた。
[本文]
- 日立製作所徒弟規程
- 第一條 職工養成の目的を以て左記職別に依り徒弟を置く
一 鍛工
二 製罐
三 鋳物
四 仕上
五 旋盤
六 電工
七 木型
八 圖工
九 計器
十 記録
十一 試験工- 第二條 徒弟は一定の人員を限り毎年四月之を募集す
但し缺員あるときは随時之を募集することあるべし- 第三條 徒弟は左の資格ある志願者中より之を採用す
一 年齢満十四歳以上十六歳以下の男子
二 體格強壮なるもの
三 尋常小学校六年の科程を修了したるもの又は之と同等以上の学力あるもの- 第四條 體格は所定の検査員之を検査す
- 第五條 應募者募集人員より超過したるときは選抜の上採用す、選抜の方法に付ては別に之を定む
- 第六條 徒弟に採用したるものは左記書式により誓約書を作り身元保證人二名連署し戸籍謄本を添へ差出す可し
身元保證人は一名は其近親尊属、他は當会社使用人又は當会社の承認したるもの
身元保證人死去其他の事故により前項の要件を缺くに至りたるときは直に補充すべし- 第七條 徒弟の年限は採用せられたる日より徴兵適齢年度の十月三十一日まてとし、爾後當所職工として従業せしむるものとす、但し徒弟在職満三ヶ年以上にして年齢満十八歳に達したるときは其成績に特に抜群なるものは参酌銓衡の上職工となすことあるへし
- 第八條 徒弟には左の待遇をなす
一 徒弟合宿所に収容し食を給す
但し通勤徒弟には月額参圓の食費を給與す
二 職服及職帽を貸與し一ヶ年「シヤツ」四組を給與す
三 日給金二錢より参拾錢までの手當を毎月一回其翌月十四日に給與す
四 工場に於て作業を習得せしむるの外、毎日一定の時間各職別に必要なる学術を教授す
五 毎月二日間の休日を與ふ
六 前號休日の外欠勤なきものには毎月日額手當五日分を賞與す
七 毎年五月より十月まて及十一月より翌年四月まで缺勤なく、作業学術共成績優良、品行方正なるものには別に賞與す
八 年期満つる後職工に採用せられたるものには日給金五拾錢以上を給與す
但し成績不良なるものはこの限りにあらず
九 業務上負傷又は疾病に罹りたるときは別に定むる所により之を扶助す
十 業務上に基因せざる疾病創傷と雖も療養日数三十日未満のものは合宿所収容者に限り所費を以て之を施療す
但し症状に依り身元保證人に引渡すことあるべし- 第九條 徒弟には工場法第九條第十條に抵觸する事業に就かしめず
但し技能習得の必要上已むを得ざる場合には年齢十七歳以上のものに限り特に周到なる監督指導の下に就業せしむるものとす- 第十條 徒弟は職工となりたるときより徴兵適齢後五ヶ年を經過するまて當工場に於て従業の義務あるものとす
- 第十一條 徴兵合格者は在職の儘入営を許す
但し入営中は手當を給與せず、且其期間は之を前條従業の義務年限に算入せず- 第十二條 徒弟は毎月其所得金の内金七拾錢を超ゆる金額の三分の一を身元保證金として積立つるものとす
前項積立金は第十條の義務従業年限満了のときにあらされは之を拂戻さす
積立金に對しては別に定むる所により利子を付す- 第十三條 徒弟は左の場合に於て之を解雇す
一 事業上の都合によるとき
二 解雇を願出て事情止むを得さるものと認めたるとき
三 病氣又は身體虚弱の爲め従業し難きもの
四 成業の見込なきもの又は不都合の行爲ありたるもの- 第十四條 前條により解雇したるものに對しては同條第一號第三號の場合の外一ヶ月金四圓の割合を以て徒弟中の日数に應し計算したる金額を教養費として辨償せしむ
但し同條第二號に依るものに對しては情状により教養費の一部又は全部を免除することあるべし- 第十五條 第十三條第四號により解雇したるものは前條に依るの外身元保證金は之を交付せざることあるべし
- 第十六條 前二條の規定は第十條義務従業年限を果さゞるものに之を準用す
但し身元保證金は徒弟期間中積立たるものに限る- 第十七條 満壱ヶ年以上勤續の徒弟にして学術技倆優秀、品行方正なるもの第十三條第一號又は第三號に該當し解雇せられたる場合は情状により特に職工に準じ解雇手當を支給することあるへし
- 第十八條 褒賞懲戒に関しては一般職工に関する規定を準用す
- ────────────────────────────
- 収入印紙三錢貼付 府県 市郡 町村大字 番地
士族・平民戸主何某何男 何 某
明治 年 月 日生- 私儀今般貴所 徒弟として御採用相成候に付ては左記の條項確守可仕候
- 一 年期中は徒弟規程其他の諸規則を堅く遵守し誠実従順に勤務可致候事
- 一 年期満了後は尚引續き所定の年限間貴所職工として従業可致候事
- 一 萬一前二項の年期中途にて辞職し又は解雇せられたる時は、徒弟規程に基き一ヶ月金四圓の割合を以て徒弟中の日数に應し計算したる金額を教養費として直ちに納付可致候事
- 一 不都合の行為ありたる爲解雇せられたるときは、前項教養費並に損害金を支弁すへきは勿論身元保證金全部を没収せらるゝも異義申間敷候事
- 一 保證人は本人をして前各項を確守せしむへく、萬一相違ひ候節は爲に生する一切の義務は連帯責任を以て速かに履行可仕、其外本人身上に関しては總て引受御迷惑相掛申間敷候事
- 右貴所諸規則熟知の上誓約書一札差入候也
- 大正 年 月 日 右
本人 何 某 印- 原籍地・現住所
(親権者又は後見人)職業
保證人 何 某 印
年 月 日生- 原籍地・現住所
職業
保證人 何 某 印
年 月 日生- 日立製作所
所長 殿