天真詩仏居士の生涯

大森林造

詩佛の墨竹画にはしばしば次の詩が添えられています。

竹に竹酔日があるが、年一回に過ぎない。この老詩人は日々三百杯を傾けて楽しんでいるのだ、と豪語しているのです。「詩書画三絶」として江戸の華やかな文化・文政期に名声を天下に轟かした詩佛は、また生涯にわたって酒を愛していたのでした。温和にしてかつ豪放磊落、あらゆる階層の人たちから愛されながら、封建社会の身分や貧富の埒外に生きて、詩と書と酒の文人の生涯を送ることができたのです。詩佛ファンとして大田南畝、亀田鵬斎、菊池五山、谷文晁、増山雪斎、梁川星巌、頼山陽たちの名をあげることができます。対座していると心が洗われるようだと、五山は『詩聖堂詩集』初編の後序に書いているのです。

詩佛のいわゆる売詩求金の旅は生涯にわたりました。したがって詩佛の書画は、関東はもちろん、秋田・金沢・京・熊野などに今なお広く残されているはずです。また、各地のさまざまな碑石にも、詩佛の見事な楷書や隷書の筆跡をたどることができます。明らかに詩佛の魂はなお生きているという思いに包まれます。どうか数々の流麗な詩佛の書画で心を洗ってみてください。

『茨城新聞』2008年4月 「江戸の大流行詩人 大窪詩仏展」より

写真:「竹」詩 大窪詩佛筆 天保7年 絹本墨画 126.1×26.1cm