日立市の下請小零細企業
昭和五三年当時の経営状態と階層性

松村 直道

拙著『地域福祉政策と老後生活』では、市民生活のサイドから分析を志向したために、企業や労働にはあまり触れられなかった。しかし、日立製作所を中心とする企業体制と労働状態は、日立研究の中軸であり、私もこの領域で若千の作業を進めてきた。そこでここでは日立製作所の一次下請を中心とする小零細企業について触れたい。

日本の中小企業の特殊性研究は、従来、独占企業による収奪の対象論、社会的対流現象論(いわゆる近代化指向論)、停滞的過剰人口論、社会階層論、等の視点から研究がされており、私はどちらかというと、社会階層論の視点から研究を進めている。
 昭和五三年一一月に私が実施した標本調査は、日立製作所の一次下請企業の社会的階層性を解明するために実施され、昭和五〇年の事業所統計から、重工業部門製造業の内、従業員三〇人未満の事業所四八八社を選び、下請企業主と協同組合への聞き取りの後に実施された。以下では回答のあった一一〇社を対象にした調査の一部を紹介する。

その際、経営体を従業員の性格により、以下のように六類型した。家族次営業(業主と家族従業員のみ)九社、小営業A(常雇一〜二人)一一社、小営業B(常雇三〜四人)一四社、小企業A(常雇五〜九人)一九社、小企業B(常雇一〇〜一九人)三九社、小企業C(常雇二〇〜二九人)一八社。(この調査では、一次下請を対象に考えたが、調査の過程で一次下請は四二社、二次下請二八社、三次下請一〇社、日立製作所以外の下請三〇社、と判明した。)

(1)事業主の経歴と労働時間

全体では、六二・七%が「中途退職後の開業」であり、小営業Aでは八一・八%、小営業Bでは九二・九%である。その前歴は、日立製作所と日本鉱業が四三・一%を占め、協力会社を含めると七〇・九%である。彼らの多くは二〇〜三〇代に開業しているようだ。小企業Bの二〇・五%、小企業Cの三八・九%は「親の後継ぎ」である。

企業主の実労働時間は、九時間二五・五%、八時間二四・六%であり、常雇従業員の七時間四九・一%、八時間三七・五%に比べてかなり長い。この傾向は、小営業のみでなく小企業でも同様であり、こうした長時間労働は、中小企業近代化論者のいう、小企業における資本と労働の分離に疑問を呈しており、事業主の親方的性格を強く示している。

(2)年間売上高と設備水準

小営業Aでは売上高千万未満が九〇・九%であるが、それ以上の階層になると売上高の分散がみられ、小企業A以上では1億円以上の上昇階層とそれ以下の停滞階層への分化傾向がみられる。

上昇階層はその一般的な帰結として、資本装備の近代化を図るといわれるが、その一側面を機械設備でみると、汎用機の割合が家族自営業以下、五五・六%、七二・七%、五〇・〇%、五七・九%、三八・五%、四四・五%であり、小企業層で半自動機が二〜三割見られるとはいえ、規模拡大に伴う装備の近代化は見られない。ここには下請少量受注という基本的性格の中で、労働集約的な生産を余儀なくされ、資金調達も困難であり、装備の近代化が進んでいない様が伺われる。

(3)取引と経営状態

取引先企業数は、どの階層でも「三社以上」が約半数を占め、一見すると下請関係からの離脱が進んでいるかのように見える。しかし主要な取引先への集中度(一社従属度)は、「九〇%以上」が全体で三五・五%と最も高く、階層的には家族自営業以下、三三・四%、四五・四%、二八・四%、三六・九%、二八・二%、五〇・〇%であり、見かけとは逆に、一社従属度がかなり高いことがわかる。特に上位階層で高いことに特徴があり、これは第一次オイルショック後の親企業からの一時的受注減少によるものなのか否か、関心がもたれる。経営状態は「良い」と「まあ良い」を合計すると全体では六一・八%であり、階層的には小企業はこれよりも良く、小営業は悪い。家族自営業はその中間に位置する。下請形態別には、二次よりも一次のほうが良く、取引開始時期との関係では、長いから経営状態が良いわけではない。しかし、四〇年以降取引開始の企業の半数は経営不振である。ここには下請企業に、高精度・高品質が求められている中での、安定成長期の厳しさが伺われる。

(4)経営の変動と将来志向

一〇年前の従業員数との比較で経営の変動を見ると、昭和四三年当時営業をしていた企業九八社の内、上昇移動二九、停滞三一、下降移動三八であり、五三年当時、従業員一〇人未満層で上昇、二〇人以上層で下降の傾向が強い。しかし、経営状態が良好な企業は、上昇移動五五・一%、停滞六一・三%、下降移動七一・〇%であり、高度成長から安定成長への移行の中で、時流に従った企業ほど経営実績が良いという結果になっている。

このように下請小零細企業にとっては、経営をどう発展させるかよりも、親企業との安定的な関係の持続の中で、いかに独自の製品開発をするかが関心の的となる。こうした事情を反映して、将来の経営志向は、現状維持が四七・四%と多いのに対し、規模拡大は二二・七%、経営多角化は二〇・〇%とやや少なくなっている。

『日立の現代史の会通信』第27号 1991.3.2