特別展示 江戸の大流行詩人 大窪詩佛
江戸民間書画美術館 渥美コレクション


此中空洞無一物



詩佛の墨竹図と自賛

墨竹図自賛
「青士々人友墨君々子師得此師友助何俗不可医」
「青士、士人の友、墨君、君子の師、この師友助けを得て何の俗か医やすべからざらん」
青士とは竹、墨君とは墨絵の竹のこと。

渇きも飢えも詩で満たし、喜びも悲しみもそのまま詩にしてしまう
渇則詩以代飲飢則詩以代食喜則詩以代楽哀則詩以代哭

と大窪詩仏は漢詩改革を理論的に指導した山本北山から評された。

その詩仏は江戸時代、大久保村で少年期を過ごし、江戸で詩を学び、化政文化の中心的存在へと育っていきます。

しかし現代の日立市では一部の人にしか知られていません。

ふるさとの人々に忘れ去られてしまった詩仏の業績と人間像を紹介します。

とき

2008年3月20日(木) –5月6日(火)
 9:30–16:30(入館は16:00まで)

ところ

日立市郷土博物館 かみね公園入口
 茨城県日立市宮田町5-2-22
 電話 0294-23-3231

観覧料

おとな 300円
 高校生までと65歳以上は無料

内容

詩仏の詩を詩仏自身の書画と化政文化をリードした仲間、友人たちの作品をまじえて、約170点を展示します。谷文晁、頼山陽、亀田鵬斎、菊池五山など多彩です。

作品は、俳優でアクト青山ドラマティック・スクールを主宰する渥美國泰さんの江戸民間書画美術館(東京都世田谷区)のコレクションです。


大窪詩佛展図録 08年3月 A4判 90頁概要

大窪詩仏の魅力

大森林造さんは著書『大窪詩仏ノート』(梓書房1998年)のなかで次のように詩仏の魅力を次のように述べています。

「詩と酒と旅を愛してやまず、詩、書画を通じてあらゆる階層の人々に愛され、存分に詩魂を天地にはばたかせ、清新詩普及の旗手的存在となって生きた。それは詩と書と酒に殉じた生涯であった。江戸時代にあって地位や身分などの枠をけとばし、個性と自由を第一として実力を以て生きることのできた人間であった。」

耳の人

渥美国泰さんは「詩佛の詩には漢字の繰り返しを使って啾啾(シュウシュウ)とか、喞喞(ショクショク)とか、現代では意味も不明な擬声音がしきりと使われ、水の流れや雨の音、春の蛙の声や夏の蝉の声、秋の虫や色々な鳥の声、街の物売りの声までも漢字を工夫して詠じているのは見事です。こうした多くの漢字の二文字を使っての漢語の擬声音は数知れず、しかもこれらは詩仏の造語ではなく、詩仏の聴覚の感性から生まれた、その音を楽しむ近代的な性格から生まれた産物で、まさに「耳の人」、つまり「聴覚型」の性格がうかがえるのです。……それはまるで、モーツアルトのディベルトメント変ホ長調K113のように聞こえてくる…」と書いています。

漢詩の日本化を先頭に立って切り開いた大窪詩仏

揖斐高さんは著書『市河寛斎大窪詩仏』(岩波書店 1990年)のなかで次のように述べています。

18世紀前半に一世を風靡した古文辞格調派の漢詩が、18世紀後半になるとマンネリ化し、高華雄渾、古雅悲壮を求めた結果、現実離れした浮華粗大な表現に陥り、批判が高まります。山本北山は古文辞格調派の詩を否定し「凡そ詩は趣の深くして、辞の清新ならんことを要せよ」「詩道は精霊を主とす。格律を主とすべからず」として自己の信条に基づく清新な表現を尊重する清新性霊の詩を提唱します。この北山の主張を実現したのは、市河寛斎とその門人たち(詩仏、菊池五山ら)でした。

「江戸時代の漢詩は、清新性霊派の時代を迎えたことによって、ようやく(盛唐期の詩の)物真似の域を脱し、自らの現実を自らの感性でとらえ、率直に分かりやすく表現することのできるものになった。漢詩は高度の学問をした特別な知識人だけが詠むものではなくなり、和歌や俳諧と肩を並べる韻文の一形式として、多くの人々に愛されるようになった。漢詩の日本化と大衆化がもたらされたのである。…市河寛斎と大窪詩仏は、江湖詩社を出発点としてこうした漢詩の日本化・大衆化状況を先頭に立って切り開いた詩人であった。」

関連催事

郷土が育てた漢詩人、大窪詩佛の詩を味わう I ▲終了

とき 1月16日(水)

講師 大森林造さん(『大窪詩佛ノート』著者)

郷土が育てた漢詩人、大窪詩佛の詩を味わう II ▲終了

とき 2月22日(金)

講師 大森林造さん(『大窪詩佛ノート』著者)

竹の造形 草月流萩谷灑清グループ

とき 3月20日(木)〜5月6日(火)

ところ 日立市郷土博物館

観覧料 無料

概要 大窪詩佛の墨竹画は竹の真髄が写しとられているとして江戸時代の人々に愛されていました。草月流萩谷灑清グループのみなさんがその詩佛の竹に挑みました。

ワークショップ はじめての漢詩漢詩のイロハ ▲終了

とき 3月29日(土)午前10時〜午後2時30分

講師 菅井和子さん(県郷土文化研究会)

概要 漢詩ってなあに。漢詩のイロハを学びます。

ワークショップ 字を楽しむ、言葉で遊ぶ ▲終了

とき 4月12日(土)午前10時〜午後4時

概要 ひとりひとりの心の中の言葉を自由に表現してみませんか。さまざまな書の表現方法を味わいながら、心解き放つ時間を過ごしましょう。

講演会 江戸の大流行詩人大窪詩佛の魅力を語る ▲終了

とき 4月19日(土)午後1時30分〜午後3時

概要 江戸文化の象徴的存在で、ふるさと日立が育てた大窪詩佛。俳優のかたわら江戸の文人をこよなく愛し、その作品の保存に情熱を傾けている渥美さんが詩佛の魅力を語ります。

ワークショップ 絵画と文字をドッキング! ▲終了

とき 4月20日(日)午前10時〜午後4時

講師 十河雅典さん(画家、茨城大学教授)

概要 文字、言葉から絵が生まれたり、文字そのものが絵になったり。みなさんのそのときの気持ちを不思議に楽しく表現してみませんか。

探訪会 大窪詩佛のふるさとを訪ねて ▲終了

とき 4月20日(日)午前8時30分〜午後3時30分(博物館集合・解散)

講師 大森林造さん(『大窪詩佛ノート』著者)

概要 大窪詩佛の生誕地をはじめ奥久慈の史跡と自然を訪ねます。

見学地 大子町桜岡家–高徳寺–近津神社–月待の滝–下大倉の枝垂れ桜(バスで移動)

講演会 江戸の大流行詩人詩佛の魅力を展示作品に探る ▲終了

とき 5月2日(金)午前10時〜午前11時30分

講師 大森林造さん(『大窪詩佛ノート』著者)

概要 江戸文化の象徴的存在で、ふるさと日立が育てた大窪詩佛。作品展示を前にしながらその漢詩の魅力を語ります。