戦災と生活—日立市民の記録— 目次

本書に「学徒動員と戦災」を寄せている小野寺和子さんは、1945年(昭和20)6月当時、日立市助川町の桜内社宅に住み、県立日立高等女学校(現在の日立第二高等学校)に籍をおいていました。3年生、15歳。小野寺さんはこの年の4月から日立製作所日立工場海岸工場製図課に学徒動員されていました。6月10日に海岸工場が空襲にあいます。その体験を短くつづっています。

そのなかから一部分をひきます。

この日以来、再び海岸工場へ行くことはなかった。まったく授業にならない日々を、それでも私たちはなにか救いがあるような気がして(学校へ)出かけていった。

学校は日立工場で亡くなった人たちの遺体の収容場所になっていましたから、授業が成立するはずもありません。しかし小野寺さんにとって、学ぶ場があること、あるいは学びに向うが心が、彼女をこの世界にとどめたのだと思われてなりません。

ですから

父は亀有工場からいそぎ海岸工場にもどされて、毎日、毎日、死体の確認やら惨劇の後始末に追われたらしい。ますます無口になり、やせこけていく父に、栄養らしいものは、なにひとつつけてやれなかった。

と、他者を思いやる心を失なうことがなかったのだ、と思われるのです。

1945年の物語がこの本にたくさんあります。

口 絵
発刊にあたって … 根本甲子男
刊行に寄せて … 立花留治
監修者のことば … 瀬谷義彦
日立とわたくし … 塙作楽
凡 例
 
第一編 戦災の記録  …19
六月一〇日の日記 … 富永広一20歳 多賀郡多賀町油繩子多賀工業専門学校六軒屋分寮
多賀工業専門学校生
日立空襲の下で … 永井浪男34歳 日立市宮田仲町 
日立製作所日立工場木工課
工場空襲と救出作業 … 武士一弥33歳 日立市助川町腰の塚
日立製作所日立工場ボイラー製作課
空襲の下で … 高橋市蔵30歳 日立市助川町鳩ヶ丘
日立製作所日立工場総務部庶務課・日立工場特設防護団本部員
火葬作業を指揮して … 水庭源美41歳 日立市宮田北町
日立市役所
罹災の三重苦 … 照沼貞二郎30歳 日立市助川町永正区
日立製作所日立工場総務部
埋没の記 … 江原金蔵37歳 多賀町成沢鮎川浜日製社宅 日立製作所日立工場汽罐工務課
空襲下派遣工たちと … 鈴木勲31歳 日立市助川町中町
日立製作所電線工場伸銅課
空襲と工場防衛活動 … 黒沢重蔵29歳 日立市宮田町宮本町
日立製作所日立研究所山手鋳造分析室
空襲で散った義妹 … 鷹☆サキ42歳 日立市会瀬町
主婦
空襲から終戦まで … 阿部寛34歳 日立市会瀬町日製社宅
日立製作所日立工場職員
敵弾にさらされて … 藤沢継三36歳 日立市宮田町宮本町3区愛知屋裏
助川郵便局集配取締員
日立工揚瓦解 … 平楽太郎43歳 日立市宮田町諏訪台社宅 日立製作所日立工場直流設計課
三度の罹災 … 鈴木寅吉44歳 日立市助川町大宮
日立製作所多賀工場
日立工場廃墟と化す … 山岸好重27歳 日立市会瀬町小山住宅
日立製作所日立工場原料部工具課
七月一八日の日記 … 富永広一20歳 多賀町油繩子多賀工業専門学校六軒屋分寮
多賀工業専門学校生
町内の人びとの死 … 大谷富貴子26歳 日立市助川仲町永正区
主婦
戦災のある小さな断面 … 酒井勇31歳 多賀町河原子字十石
日立製作所多賀工場航空電装課
女子挺身隊員の死後 … 後藤広喜32歳 多賀町成沢鮎川浜
日立製作所多賀工場国分配工課
学徒動員と戦災 … 小野寺和子15歳 日立市助川町日製桜内社宅
県立日立高等女学校
ああ、六月一〇日 … 倉田義彦32歳 日立市助川町日製鳩ヶ丘社宅 日立製作所日立工場第一勤労課
わが焼けだされの記 … 大友海太郎38歳 豊浦町川尻
国民学校教員
艦砲に片脚をやられて … 小沢兼治郎48歳 日立市助川町日製山根社宅
日立製作所山根浴場管理
仲町国民学校炎上 … 黒澤勝明33歳 日立市日鉱大雄院社宅
日立市仲町国民学校教員
艦砲下を逃げのびて … 日向寺よし子28歳 多賀町河原子浜町
農業及び行商
工場消防活動のなかで … 守安清40歳 多賀町河原子
日立製作所多賀工場原料部モールド課・特設消防隊班長
妻の従弟一家の死 … 川守田義夫42歳 多賀町下孫
多賀郵便局員
艦砲に追われて … 鶴岡きん27歳 多賀町河原子塙町
主婦
わが少女期の戦災 … 柴田浩子11歳 日立市会瀬町
国民学校5年生
川尻の戦災 … 田山兼一34歳 豊浦町川尻
日立市仲町国民学校教員
岩間課員とその父親 … 五頭勘次郎34歳 日立市会瀬町日製小山社宅 日立製作所日立工場勤労第二課
戦災とわが家 … 益子かほる32歳 多賀町油繩子
教科書・たばこ取次供給所
学徒動員と戦災 … 若山文彦20歳 日立市助川町田手沼日青寮
福島経済専門学校3年生
生還の記 … 三浦勇喜41歳 日立市宮田町神田
日立製作所海岸工場
生き埋め脱出 … 中村千代吉33歳 日立市相賀町
日立製作所日立研究所庶務担当
空爆下を逃げ惑う … 大友善吉32歳 日立市助川町田手沼消防社宅
日立製作所海岸工場
鉱山荷扱所と勤労動員 … 小林時二48歳 日立市助川町旭町東暁館前 日立鉱山運輸課・消防隊組長
焼跡の人骨のにおい … 武田孝一10歳 日立市宮田町
宮田国民学校5年生
久慈町の監視哨のこと … 小林政治33歳 久慈町
写真館経営・久慈監視哨員
工場の電気窯を火葬炉に … 薄井一27歳 多賀町下孫
日立製作所多賀工場モールド課
戦災と肉親の死 … 沼田育江16歳 日立市南町
日立製作所電線工場検査課
日立戦災こぼれ話 … 大和和夫31歳 日立市助川町下町市役所裏 日立製作所日立工場電線検査課
四つの柩・焼野原のまち … 古山善次郎38歳 多賀町諏訪石内社宅
日立製作所多賀工場技術部技術課
艦砲射撃とその後 … 山本はる41歳 多賀町成沢
日立製作所窓和寮勤務
川尻の戦災とその前後 … 松本銀次郎49歳 豊浦町川尻
豊浦町助役・豊浦町警防団長
戦災の思い出 … 岸田鉄之助既発表[日立製作所海岸工場]
戦災の思い出 … 雑賀重俊既発表[日立製作所海岸工場稲荷山女子寮防護団長]
爆撃当時の日誌より … 藤沢徳治既発表
戦災記録 … 高坂☆子既発表[小学校4年生]
敵機来襲 … 和田一郎既発表[日立製作所海岸工場]
転がっていた鉄兜 … 根本武雄既発表[日立製作所海岸工場]
消防奮戦記 … 関虎之助既発表[日立市宮田町諏訪台社宅 消防班長]
終戦前夜 … 大竹孤悠既発表[日立市宮田町]
大東亞戦末期の想い出 … 黒沢勇既発表[多賀町油繩子の艦砲と焼夷弾被害]
飛行雲 … 新妻陸利既発表[多賀町成沢 旧制中学4年生]
空襲 … 小林豊次既発表[日立製作所海岸工場]
その時工場で … 植木耕造既発表[日立製作所海岸工場]
空襲、艦砲射撃 … 植木みさ子既発表[日立市助川町田手沼 主婦]
戦争と私 … 前沢満既発表
 
第二編 戦中、戦後の生活記録  …219
戦災当時の日記から … 金みき33歳 日立市宮田町諏訪台社宅 主婦
戦時下の家庭雑事日記から … 田鍋時子27歳 多賀町成沢字戸崎
主婦
終戦後の日立鉱山の捕虜たち … 永沼義信34歳 日立市滑川町
日立鉱山本山病院
塩炊部落の生活 … 槙幸26歳 那珂郡勝田町東石川警察練習所
海軍・警察官
野草料理と闇米買いだし … 山本ちよ51歳 日立市助川町下町
主婦
警防団の防護活動のなかで … 樋口二郎31歳 日立市助川町下町
日立市警防団防護監視班長・洋服店経営
わが青春の女子挺身隊 … 藤田みどり27歳 多賀町大字油繩子
日立製作所鮎川工場
戦時下の農業経営のことなど … 豊田清37歳 日高村小木津字相田
農業
食糧増産と農業会の解散 … 立川淏42歳 豊浦町大字川尻
農業
青年学校に教鞭をとって … 安達勇松22歳 日立市宮田町
日立市助川商工青年学校教員
戦中戦後の生活の断面 … 佐藤照子36歳 日立市助川町中町
主婦
海岸特設警備隊のことなど … 鈴木喜一45歳
特設警備部隊本部員
翼賛運動に身を投じて … 北見粂蔵40歳 日立市助川町
団体役員
上意下達の仕事にうちこんで … 鈴木操40歳 日立市助川町大和町
日立市役所
戦時中の学校教育 … 瀬谷喜雄36歳 日立市宮田町日鉱大雄院社宅
日立市駒王国民学校教員
朝鮮からつれてこられた人たち … 張柄旭・
千金守
24歳・23歳
学生
生活必需品配給統制組合の仕事 … 勝間田俊太郎33歳 日立市宮田町本町
荒物食料品店経営・団体役員
査閲ボイコット … 大江一道既発表[県立日立中学校生]
廃櫨–焼跡に立ちて– … 川崎松寿既発表
終戦前後のこと … 大塚尚既発表[県立日立中学校生]
日立空襲と母の死 … 塙作楽既発表
助川下町義勇団 … 川崎巳之松40歳 日立市助川町下町
洋品店経営
 
第三編 史 料  …285
一 防空・戦災関係史料
 1 日立町防護団・防空演習[昭和11年]
 2 防護団勤務記録[抄録 昭和20年3-6月 日立製作所防護団]
 3 昭和二十年四月起 多賀町戦時災害関係綴[戦災死亡者名簿等]
 4 日立市昭和二十年戦災状況[昭和24年版『日立市勢要覧』]
二 戦時下・敗戦直後の生活史料
 1 町内会・隣組(1)部落会・町内会概況(2)昭和9年起高松町組合記録
 2 生活物資の配給統制(1)統制物資と組織(2)日立の配給記事・配給
  メモ・配給回覧板
 3 勤労動員(1)学徒、女子挺身隊(2)茨城師範学校工場(3)朝鮮人労
  働者
 4 国民学校[宮田・東小沢国民学校の学校日誌、助川・成沢・水木小学校学事報
  告など]
 5 戦後状況[仲町国民学校校務綴]
 〔史料について〕
日立の社会生活史年表 …533
あとがき …595