北郡里程間数之記 内容細目
幕末期における水戸藩北郡(後述)の村間及び村内における橋や辻を目印としてその間の距離(間数)をこまかに記す。まさに「里程間数之記」である。それだけではない。著者加藤寛斎が業務上必要としたのであろう事項のほかに。神社仏閣、故城の事歴など他方面にわたる。一言では説明が難しい。かつ、たとえば天明6年(1786)の水戸城下をも襲った洪水の記録が、なぜか第三冊の天神林村(常陸太田市)の条にあったりするので、ともかく原本にあたることをおすすめする。
著者寛斎は筆に自信があるのであろう。絵が数多く収められており、村や自然の景観が活写されている。なお第4冊に基本的に図はなく、文章のみである。
寛斎による凡例を次に紹介する。○は制作者による。
○此編毎村往還通路の間数を専とせは、其図する所地の分内広狭不同ならす、紙上狭く縮め写したれは是を不証岨、或ハ阪登降の間数、崎嶇路の曲直等は大抵顕之
○道路の左右、田圃ハ大抵を録し、其餘の反畝は除之、某村坪名或は作場路あるひは隣郷への小径は往還の岐路僅に記而已
○某村より隣里の捷径有といへとも、素より往還を専とすれは不載之
○平地の村里山つきの鄙郷山嶽原野乾湿戸口馬牛悉くしるさす、たゝ山付の邑々九牛か一毛を図するのミ、其餘は紙上繁雑して還之煩しきを以て省略す
○路傍の神祠芳境仏宇の佳景見へ渡るもの粗載之、某土の名勝月居峠美観等の如きは今時の風景有の儘に摸写し、或ハ古迹塚堭、或は舊館の類ハ路傍にあらすといへとも大概是を載す
○古戦場或ハ生瀬乱の如きハ伝記なけれは及後世遺謬あらむ事多かるへし、故に其土の俚諺茶話といへとも伝説を取て載之
○遠山の嶮嶠老足におよひかたきハ、其土に臨といへとも某地の古図をもて老農夫に訊て少しく載之
○某邑より水府への里数は郡鑑[1]に載る所をもて録之
- 原本 4冊からなり、国立国会図書館が所蔵する。デジタルコレクションにおいて閲覧できる。
- 著者 加藤寛斎。水戸藩北郡奉行所の下級官吏である。寛斎は号で、実名は嘉継、通称は晩年の善兵衛の外に三つある。慶応2年(1866)に84あるいは86歳で没する。著書に「菜園温故緑」があり、『日本農書全集』第3巻に翻刻されている。また「加藤寛斎随筆」が茨城県史編さん委員会編『近世史料4 加藤寛斎随筆』に翻刻されている。著者寛斎のことや業績については、『近世史料4』の解説が詳しい。
- 成立時期 安政2年(1855)10月
- 書名の北郡について 書名にある北郡とは常陸国の郡名ではなく、水戸藩の地方行政組織が管轄する区域の名称である。天保2年(1831)1月藩主斉昭主導によって藩の地方統治組織(郡奉行所)をそれまでの11郡から四郡制に変更し、かつ在地の郡奉行所を水戸城下へ集中させた。四つのうちの一つが北郡で太田組とされ、那珂郡20ヶ村、久慈郡97ヶ村、あわせて117ヶ村からなる[2]。現在の市町村でいうならば、那珂市・常陸太田市・常陸大宮市・大子町にまたがる。
- 翻刻 大子町史編さん委員会が大子町部分を[3]、水城古文書の会が画像付で全文を翻刻している[4]。
- 附記 本史料に掲載されている事項のうち、いくつかは「加藤寛斎随筆」にも収録されている。ただし「随筆」がより詳しい。かつ県史本『加藤寛斎随筆』には、編者によって目次が作成されているので、併せての利用をおすすめする。
上図:第一冊 本文冒頭 下図:第二冊 奥州山釣山之真景略図 国立国会図書館デジタルコレクションより
[註]
- [1]「郡鑑」については、未調査。享和3年(1803)の「常陸紅葉郡鑑」は知られているが、太田組(享和2年に大里組と大子組に分離、のち北郡に再統合)の「郡鑑」が存在したのであろうか。
- [2]仲田昭「水戸藩郡制の変遷と郡奉行」『茨城県立歴史館報』第17号(1990年)
- [3]大子町史編さん委員会編・発行『大子町史料 別冊〔Ⅰ〕 常陸国北郡里程間数之記』(1979年)
- [4]水城古文書の会編・発行『常陸国北郡里程間数之記』巻之一〜巻之四(2016年)
○内容細目凡例
- (1)巻別に内容を摘記し、記載項目欄に掲載した。本書の第一冊に目次がおかれているのだが、本文と異る部分があるなどするため、制作者の関心に沿って記事の項目をたてた。
- (3)記載項目名後のアラビア数字は、国会図書館デジタルコレクションの画像番号。
- (4)〈 〉は当ページ制作者による。
常陸国北郡里程間数之記 内容細目
巻数 | 記載項目 |
壱 | 表紙題簽‥1 柏安之序‥3 たけ雄序‥5 柳庵佐重序‥8 自序‥9 凡例‥13 目次‥17 |
■鹿島より八溝山 〈那珂市〉鹿島村‥29 瓜連村‥31 白蓮塚‥32 鏡之沼‥33 下大賀村‥35 古城蹟‥35 誕生寺縁起‥36 〈常陸大宮市〉上岩瀬・下村田村‥37 画仙雪村翁‥38 泉村‥40 宇留野村‥41 大宮村‥42 鷹巣村‥45 上大賀村‥51 野上村‥55 垂味噌割合‥56 山方村‥57 舟生村‥61 盛金村‥64 山椒の製方‥65 蒟蒻のこと‥66 盛金絶頂大難場‥68 〈大子町〉西金村‥71 湯沢温泉‥72 頃藤村‥73 下津原村‥77 処谷船渡入口‥78 南田気村‥81 大子村‥87 矢田村‥90 川山村‥92 川山村見渡しの真景‥96 下野宮村‥97 町附村‥98 近津明神‥99 上郷村‥103 上野宮村‥108
■堂坂通 〈大子町〉八溝山道‥112 大沢村‥114 大沢村塩沢新田‥118 ■馬頭より八溝 〈大子町〉上金沢村‥121 下金沢村‥126 塙村‥130 蘆野倉村‥132 初原村‥134 浅川村‥134 冥賀村‥138 左貫村‥139 如信上人詠歌墨軸〈浄土真宗願入寺由来〉‥140 粟原村平家ヶ森‥142 栗原村牛蒡‥142 ■上河合より天下野経由月居峠 〈常陸太田市〉上川合村‥143 奇誕〈上河合村三姓〉 藤田村‥145 藤田村五姓‥146 大里村‥148〈第二冊に続く〉 御郡方改正経緯‥148 | |
弐 | 〈常陸太田市〉〈続〉大里村‥3 元大里陣屋‥3 久米村‥5 久米村願入寺由来‥7 岩手村‥8 高柿故城‥9 玉造村‥9 蘆間村‥12 和田村‥14 中利員村農夫饂飩を製す 17 松平村‥18 国安村‥20 医王寺‥20 和久村‥22 光照寺坪 町田村‥28 中染村‥36 西染村‥37 天下野村‥38 西染村田楽大夫こと古川山城‥39 中染村和紙漉き方‥40 天下野村御旅館‥42 木村謙次郎来歴‥42 天下野村ささら獅子舞‥43 天下野・中染両村延紙製造‥44 那珂郡和紙‥45 下高倉村‥49 下高倉村水呑百姓病気のこと‥51 上高倉村‥60 高倉湯草の温泉‥64
〈大子町〉小生瀬村‥68 宝泉寺‥71 諏訪明神‥72 袋田村月居嶽‥73 ■大子村舟渡より袋田瀑布 〈大子町〉池田村‥75 北田気村‥75 久野瀬村‥77 月居岳瀑布‥78 袋田村‥78 温泉‥79 袋田瀑布‥80 袋田村内処谷船渡通‥83 ほや川沼・月居峰碑‥85 袋田滝壺御詠尊筆臨書‥87 ■奥州矢祭山道 下野宮村・〈矢祭町〉真木野村‥89 奥州山釣山之真景略図‥90 ■下野宮村より猪鼻峠 下野宮村‥91 大生瀬村‥93 内大野村‥96 高柴村‥98 小生瀬村‥99 生瀬乱古跡‥100 小生瀬村・高柴村‥100 那須雲岩寺‥107 野州那須郡寒井村古墳‥109 小生瀬村古戦場之図‥111 万部山来迎院宝泉寺‥112 古文書写‥112 高柴村内鏖地獄沢図‥117 生瀬乱之由来里人説‥118 ■安寺持方・東金砂山 〈常陸太田市〉上高倉村内阿寺・持方・武生‥121 男體山‥123 金砂城‥123 東金砂山‥125 ‥東金砂山遥望之図‥127 東金砂登山道筋‥129 天下野村産物評‥129 東金砂山権現図‥130 天下野村医生評‥130 ■酒出から西金砂山への道 〈那珂市〉南酒出村‥132 北酒出村‥133 北酒出村出土勾玉・瓦器由来及び図‥134 門部村‥136 鹿島村‥139 八幡瀬船渡‥139 〈常陸太田市〉中野村‥141 松栄村‥145 薬谷村‥147 万石長者屋敷‥147 大方村‥148 竹合村‥150 箕村‥152 高柿古城‥152 下利員村‥153 西光寺運慶仁王‥154 中利員村‥154 妙見の泉‥155 御立林‥157 寂光寺‥159 |
三 | ■酒出から西金砂山への道〈続〉 〈常陸太田市〉上利員村‥4 鏡徳寺‥4 利員煙草‥5 赤土村‥6 赤土煙草‥7 下宮河内村‥7 上宮河内村‥9 西金砂山図‥11
東金砂山へ佐竹氏篭城‥13 上宮河内村金砂沢より金砂山眺望図‥14 佐竹冠者秀義金砂山篭城‥15 西東両金砂山大祭礼旧記‥16 西金砂山‥18 西金砂山小祭礼‥19 西金砂山‥20 田楽 藝園小記‥22 名所古蹟‥22 田楽 郡鑑‥24 西金砂山権現‥24 西金砂小祭礼‥25 西金砂山‥26 田楽‥27 金砂権現大田楽之節被下籾‥27 金砂田楽‥28 金砂山大祭礼順次‥29 田楽‥30 雑話‥31 金砂山小祭礼田楽‥32 田楽 藝苑小記‥35 日本一家五穀豊饒西金砂田楽修行図‥36 着装束全図‥40 田楽面三種‥43 ■杉より瑞竜 〈那珂市〉杉村‥51 横堀村‥52 額田村‥53 額田故城‥53 久慈川出水の鑑定‥53 〈常陸太田市〉上川合村‥58 下河合村‥58 谷河原村‥60 磯部村‥61 医師岡玄策 太田村‥62 中山備前守知行所引替‥62 往還道添山桜植次次第‥64 馬場村‥67 瑞竜村‥68 太田村之桜‥70 西山旧跡‥71 瓜連村上宿より静村境‥72 瓜連村下宿より中里村境‥75 瓜連常福寺門前より古徳境‥76 ■大宮より辰ノ口・岩崎堰 〈常陸大宮市〉富岡村・小倉村・塩原村・辰ノ口村・岩崎村‥80 辰ノ口堰‥81 岩崎堰‥82 徳川治紀・斉昭両堰上覧‥83 富岡村‥84 ■太田より大宮 〈常陸太田市〉太田村‥86 新宿村‥86 大平村‥87 久米村‥88 松茸漬方秘伝‥88 大方村‥88 花房村‥89 〈常陸大宮市〉富岡村‥90 小倉村‥92 塩原村‥93 辰野口村‥94 辰野口田方用水堰場‥95 辰之口村八景‥93 ■西山桃源郷白坂通 〈常陸太田市〉太田村‥98 新宿村‥98 梅と桃‥99 梅里公‥101 西御山御幽居之図‥102 細工人太田九蔵‥103 大平村‥104 大里村‥105 太田村立川純美先生‥105 ■太田より大里横道 〈常陸太田市〉太田村‥107 稲木村‥107 三人の四郎の悪事‥108 天神林村‥109 鎮守七代天神来歴‥109 鶴ヶ池新田開発‥109 佐竹寺‥110 古城迹地‥110 天神林村大工与衛門‥111 天明の浅間山噴火と洪水‥111 大里村圷坪‥112 天神林村矢矧‥113 三昧堂檀林‥113 鏡徳寺境内大村加卜鍛刀古跡‥115 北支配所保内高柴邑裂山全図‥121 佐竹家中奉加帳‥123 西山碑‥127 八溝山正景‥132 正宗寺古銭‥136 金掘仕法‥138 元禄五年御領内御金山一巻‥140 寛斎筆永田家事蹟書由来‥143 録永田氏所蔵旧記巻末‥145 下高倉名所竜神ヶ淵‥150 御国郷士御取立‥152 太田村立川左四郎‥153 金五百両上金郷士の始り‥153 太田の風俗‥155 石釖の怪并幽魂‥156 漆益木のこと‥157 常陸国風‥158 静明神来歴‥160 静明神略縁起‥160 静大明神祝詞‥162 中河内より静神社道法‥164 水戸八景‥165 東金砂山大縁起‥166 佐竹秀義東金砂山篭城‥167 |
四 | 佐竹秀義東金砂山篭城(続)‥3 佐竹義篤東金砂山篭城‥3 佐竹義舜東金砂山篭城‥4 行基瓶再按‥9 佐竹の庄‥13 堀江茂衛門‥16 太田村六姓‥20 久米村堀江権兵衛‥21 天神林村七代天神建立‥22 瓜連村村名書替のこと‥23 同村‥23 北郡支配村々旧家役家‥28 了誉上人‥31 太田鋳銭座大略‥37 雪村画団扇‥39 佐竹氏国替‥41 田ノ沢村庄屋星図書女服紗写‥52 八溝山古鐘〈図付〉‥54 西金砂山大祭礼行列附‥56 椎茸作り方伝‥63 御国煙艸製方伝授書‥64 干柿製法伝授并序文‥68 国郡を定られしこと‥72 坂東の称、関八州のこと‥72 人家の一里、道路の一里‥73 麦年貢を納め始のこと‥73 大歩小歩検地‥74 中古知行高何貫文と言うこと‥74 石という字を石に用いること‥75 永文の始めのこと‥75 鐚銭のこと并金壱分を百疋と唱えること‥76 暦は耕作の為に製り給いしこと‥76 暦にて夜の時を知るべきこと‥77 田方水引旬大切のこと‥78 浄土宗十八檀林‥78 一向宗二十四輩‥78 田方小検見旬‥79 屋上瓦下敷土取様の弁‥79 田畠何杯蒔、何升蒔と唱えること‥80 常陸国廿八社‥82 式社之外七社‥83 天明七年東金砂大祭礼行列附‥84 爐中の菌‥89 御朱印の社堂領‥90 諸宗‥93 大寺の御朱印御除高‥94 太田村六姓の伝説再出‥96 勧農話‥97 水積の事‥96 一村の絵図仕立方‥98 小生瀬・天下野馬市の発り‥99 鞍置馬一疋道具‥99 知行永銭詰の定‥100 人足積の大法‥100 地方知行田畠割并御取附古法割‥100 小検見歩刈にて皆引の見詰の定‥101 勧農の要‥101 御鉄砲御職人禄高并御工役‥102 御屋敷御拝領手代昼食御済口‥103 西山御碑御建立土地方の次第‥103 熊野深山異木‥104 礫川邸御庭異木‥105 御忌日‥106 寛永御日記の内抜粋‥107 木船の神社‥110 尾州様御役方衆‥111 山野辺主水正様役方衆‥111 割附姓名‥112 太田組郡宰姓名‥112 分付山改并竹薮改‥114 隠田‥114 喧嘩にて疵付候捌‥115 水戸御町奉行‥116 国々燧石‥120 陽石陰石‥120 藤柄町・枝川遊女屋‥121 松坂躍流行‥121 請取申御扶持方之事‥122 吉田村にて諸士小路割‥122 舜水先生御扶持手形‥124 日本七十箇国諸大名屈伏のこと‥125 院居士号御停止‥126 太田配下百両差上三人扶持方下されし者‥126 内済扱申付候御達‥127 御領内醤油造高‥127 毒煙救方‥128 箭根抜の一方‥128 太田村郷士羽部九郎三男喜八郎帯刀一件‥128 馬場御殿郷医医書会読‥129 諸手代帯剣のこと‥129 郷士共撤剣のこと‥129 種籾拝借定‥130 瑞竜山木登人足付雇銭‥130 船大工賃金直段定‥130 手負人布焼酎代取扱‥130 郷士等村付籾渡村割‥130 瑞竜山伐木御日柄定‥130 御夫人様方御諡号のこと‥131 御忌日刑当直り御達‥131 猟師鳥を打候刑当‥131 太田御郡下寄寺‥132 給人手形引替え延引刑当定‥132 坂ノ上郷寄村‥133 他所飛脚町宿賄代定‥133 此方ゟ他所へ飛脚遣候間御酒代の申合せ‥133 軒別の節妊婦見咎の刑‥133 郷士縁組願‥134 諸掛り合穿鑿入目割‥134 耕耘大切のこと‥135 源頼房公御誕生御封国‥136 中山信吉御附のこと‥136 御誕生御家督‥137 御下国上使御請の次第‥138 水戸薬王院古文書の内‥140 本一丁目屋敷間口‥141 〈以下破れ多し〉 行基壺之図‥146 諏訪明神‥148
北郡里程之記跋‥150 |