産業遺跡を歩く—北関東の産業考古学— 目次

中川浩一氏の「はじめに」からぬきだす。

…歴史の進行から脱落したものには、荒廃の運命が待つだけである。遺跡の中のあるものは、草むす山野の中で風化の途をたどってきた。それが再開発の対象ともなると、遺跡の多くは、根底までとり除かれて消滅してしまう。
…産業考古学 Industrial Archaelogy は、こうした傾向に対して、抵抗のキャンペーンをかかげるために出現した、まったく新しい存在である。イギリスで発祥した同種の企てにならって、〈産業考古学〉と名のってはみたものの、これが学問の一翼を構成しうるか否かについても、正直にいえば、確信を持ちうるわけでもない。産業遺跡の保存 運動にカッコよい飾りをつけるために、〈学〉を名のったのだろうと批判されても、実態を示して反論できるだけの成果が、この国では、いまだあがってこなかった。
…産業遺跡を"発掘"し、またその作業を通じて、近代の日本を形成した生産活動のありさまとそれらにかかわった人々の姿を後世に、しかと伝えようとする目的のもとに、この書物はあまれた…

内容細目

 まえがき
  産業考古学のすすめ中川浩一… 1
  北関東の産業史を点描する
シャトーは牛久に始まる久野勝弥… 15
  ワインことはじめ/立志伝中の人「神谷伝兵衛」/牛久の地にシャトーを/
  ワイン醸造の成功はなぜ/産業遺跡化するシャトー
黒船ショックで鉄をつくる和田康太郎… 31
  青銅砲から鋳鉄砲へ/反射炉建設と大島高任/近代製鉄業への道
ズリ山が語る炭鉱の地域史岩間英夫… 45
  炭鉱景観いまむかし/ズリ山のもとに炭鉱集落/石炭産業の生涯を地域史の
  中に!
高層拡散ことはじめ秋山高志… 61
  赤沢鉱山から日立鉱山へ/竹内維彦がもたらした自熔製鉄法/煙害に苦闘し
  た技師と農民/『ある町の高い煙突』
鉱害の原点「足尾」を探る日下部高明… 77
  足尾鉱山の前史を調べる/絶頂期は大正五、六年に/銅山の中心は本山坑地
  域/鉱山都市の核をなした通洞坑地域/ゴーストタウンとなった小滝坑地域/
  今後も残る煙害・鉱毒
工業化の先駆は足利織物日下部高明… 95
  江戸時代に産業として成立/輸出の基礎は明治にかたまる/大型工場は大正
  期に成立/産業遺跡と化した輸出絹織物業
自動車に喰われたケーブルカー今城光英… 111
  観光ルート形成のカギをにぎって/理づめで作ったケーブルカー/期待をに
  なって再開発/じり貧に終った自動車との競争/ケーブルカーの廃止をめぐ
  って
生糸に賭けた乙女の情熱梅沢ふみ子… 127
  一世紀の重味を伝える製糸場/官営工場としての富岡製糸場/製糸業発展へ
  の道しるべ/富岡の工女たち
平和によみがえる火薬製造所原田雅純… 143
  戦争とともに歩んだ火薬製造所/火薬輸送に貢献したミニ鉄道/火薬所の面
  影をたどる
硫黄鉱山オイルパワーに屈す和歌森民男… 159
  硫黄鉱業史をふり返る/群馬県にさかえた硫黄鉱山/回収硫黄はオイルパワ
  ーの申し子/多様に変化した硫黄鉱山跡
碓氷にきずいたかけ橋中川浩一・今城光英… 177
  碓氷の鉄路をたどる/はかなく消えた馬車鉄道/紆余曲折のはてにアプト
  式/記念物と化したアプト式機関車
  北関東の産業を動かした人びと
フランス式製糸を伝えたポール・ブリューナ富田 仁… 195
  ブール・ド・ペアージュ、生誕の地/無名のブリューナ和蘭八番館へ/機
  械製糸工場設立の事情/富岡選定の経緯を探る/開業準備は苦心の連続/
  首長ブリューナと尾高所長/その後のブリューナ、永眠の地よいずこ
小平浪平と日立製作所の開設井原 聰… 215
  赤沢にくすぶるボロ鉱山/よみがえった鉱山の秘密/愛児の死とひきかえ
  に……/人材集めて全力突進/三人組は小坂にはじまる/人もうらやむ東
  電の技師/大黒屋の一夜/修理工場から製作所へ
飛行機製造史の鬼才中島知久平加藤新一… 237
  航空事業のゆりかごの中で/夢をかけた飛行機製作工場の創設/中島飛行
  機製作所の成立/政治家中島知久平と急成長をとげた中島飛行機/栄光の
  座から破滅へ直行
  北関東の産業考古学中川浩一… 259
  自治体の関心は低調である/企業はそれなりに努力する/動態保存の実例
  はあるが…/記念碑やレプリカも重要な意味をもつ/遺跡の発掘は不充分
  /出版活動では成果があがった
あとがき
北関東の産業博物館ガイド
使用地形図一覧
索引