史料 高萩炭礦高萩礦閉山資料
1967年(昭和42)2月3日、高萩炭礦(株)は、高萩炭礦(高萩礦)の閉山を決定し、5日に労組は臨時大会を開き、会社提案を承認する。
同年5月に採掘を終了し、8月14日坑口を閉鎖する。炭礦閉山促進のために設けられた国の整理促進交付金による閉山であった。
本史料は閉山が決まり、整理促進交付金の申請が3月1日になされるが、その申請の過程で作成されたものと考えられる。
史料内容細目
- 1.炭鉱の位置、交通並びに輸送関係
- 2.生産数量、労務者、能率、品位
- 3.閉山交付金申請に至つた経緯
- 4.鉱区および開坑の沿革
- 5.隣接鉱区
- 6.地形、地質、炭層
- 7.炭層の状況
- 8.炭質
- 9.開坑
- 10.現稼行坑
- 11.採炭
- 12.坑内外運搬
- 13.坑内ガス
- 14.坑内湧水
- 15.原単位表
- 隣接鉱区略図
史料について
- ◦作成時期:1967年(昭和42)3月
- ◦作成者:高萩炭礦株式会社
- ◦判型等:B5判。本文14ページ、内図一葉。横書き、タイプ印字青焼
- ◦翻刻にあたって:□は判読できなかった文字。見出しに二つの大きさを用いたが、史料本文文字の大きさはすべて同じである。
[本文]
高 萩 炭 鉱 資 料
1.炭鉱の位置、交通並びに輸送関係
当礦業所は常磐炭田の南端に位し常磐線高萩駅西方約5.5kmで専用線により貨車輸送を行なつており、所要時間約15分陸上輸送には極めて恵まれ、消費地と直結している形である。
又、小名浜港迄は約40km程度で船積みのためのトラツク輸送の所要時間は約1時間である。
2.生産数量、労務者、能率、品位
年度\区分 | 生産数量 | 実働労 務者数 |
能率 | 品位 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
高萩坑 | — | 計 | ||||
25年 (26/3) |
616 |
616 |
||||
26年 | 63,285 | 63,285 | 880 | 6.0 | 4,600 | |
27年 | 124,942 | 124,942 | 817 | 12.7 | 〃 | |
28年 | 134,415 | 134,415 | 802 | 14.0 | 〃 | |
29年 | 126,604 | 126,604 | 799 | 13.5 | 〃 | |
30年 | 168,889 | 168,889 | 802 | 17.5 | 4,800 | |
31年 | 181,397 | 181,397 | 759 | 19.9 | 〃 | |
32年 | 183,870 | 183,870 | 754 | 20.3 | 〃 | |
33年 | 161,520 | 161,520 | 721 | 18.7 | 〃 | |
34年 | 168,490 | 168,490 | 658 | 21.3 | 〃 | |
35年 | 174,290 | 174,290 | 643 | 22.6 | 〃 | |
36年 | 162,830 | 162,830 | 651 | 20.8 | 〃 | |
37年 | 177,170 | 177,170 | 648 | 22.8 | 〃 | |
38年 | 169,480 | 169,480 | 610 | 23.2 | 〃 | |
39年 | 196,150 | 196,150 | (20) 557 |
29.3 | 4,830 | |
40年 | 171,170 | 171,170 | (39) 550 |
25.9 | 〃 | |
41年 (2月まで) |
181,810 | 181,810 | (38) 536 |
28.3 | 4,810 | |
[単位について:史料には示されていないが、生産数量はトン、実働労務者数は人、能率はトン(実働労務者一人あたり1ヶ月の出炭量)、品位はkcal、実働労務者欄の( )内は職員数で外数と推測する] |
3.閉山交付金申請に至つた経緯
イ.需要先の見透しの全く立たない事
昭和41年秋以降急速に販売先がちゞまり家庭用炭としての中塊炭の売先が極端に不振に陥ると共に二号炭(4,600Cal)以下の需要先である日本加工紙高萩工場、味の素、その他大手工場が相次いで昭和42年6月以降重油転換を行うため高萩炭礦の生産拡大が望みなくなつた事。
ロ.生産コストの低下、自立経営の見込がたゝない事
上記の如く生産拡大によるコスト低下を望めない上に深部移行と共に水量増大し縮小合理化を計る事にしても固定費の大幅削減不可能のため、かえつてコスト的上昇を招くおそれのある事。尚高萩礦山元損益は下記の如くである。
生産原価、平均販売価格表
\年度 | 37 | 38 | 39 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
生産量 | 173,170 | 175,210 | 193,750 | |||
実働労務者 | 648 | 610 | 557 | |||
能 率 | 22.3 | 23.3 | 20.0 | |||
金 額 | 屯当り | 金 額 | 屯当り | 金 額 | 屯当り | |
物品費 | 210,069 | 1.213 | 190,623 | 1.088 | 189,138 | 976 |
労務費 | 268,524 | 1.551 | 267,845 | 1.529 | 272,260 | 1.405 |
経費 | 110,903 | 640 | 95,732 | 546 | 115,864 | 598 |
減価償却費 | 29,606 | 171 | 32,048 | 183 | 32,303 | 167 |
控除額 | △82,937 | △479 | △80,347 | △459 | △85,441 | △441 |
出炭原価 | 536,165 | 3.096 | 505,901 | 2.887 | 524,124 | 2.705 |
本社費 | 27,961 | 161 | 34,995 | 200 | 34,488 | 178 |
支払利子 | 43,452 | 251 | 53,475 | 305 | 70,243 | 362 |
総原価 | 607,578 | 3.508 | 534,371 | 3.392 | 628,850 | 3.246 |
山元手取 | 498,435 | 2.959 | 583,162 | 2.955 | 605,680 | 2.308 |
\年度 | 40 | 41 | ||
---|---|---|---|---|
生産量 | 181,500 | 174,411 | ||
実働労務者 | 550 | 536 | ||
能 率 | 27.5 | 27.1 | ||
金 額 | 屯当り | 金 額 | 屯当り | |
物品費 | 196,806 | 1.084 | 175,124 | 1.004 |
労務費 | 293,723 | 1.618 | 324,583 | 1.861 |
経費 | 136,456 | 752 | 120,328 | 690 |
減価償却費 | 27,492 | 151 | 32,919 | 189 |
控除額 | △82,528 | △454 | △99,548 | △571 |
出炭原価 | 571,949 | 3.151 | 553,406 | 3.173 |
本社費 | 29,606 | 163 | 26,537 | 152 |
支払利子 | 69,744 | 384 | 63,958 | 367 |
総原価 | 671,299 | 3.698 | 643,901 | 3.692 |
山元手取 | 651,657 | 3.199 | 492,689 | 3.078 |
4.鉱区および開坑の沿革
イ.採掘権の設定から現権者に至るまでの鉱業権の沿革
第76号 | 明治45年4月17日 | 東京市下谷区茅町2丁目10番地千沢宇三郎のため鉱区合併による採掘権設定を登録する。 | |
大正3年4月14日 | 長崎市今町59番地代表者□□淵之助外2名のため採掘権取得 | ||
大正3年9月7日 | 東京市北豊島郡南千住町大字地方橋場1,300番地茨城炭礦株式会社のため採掘権の取得 | ||
大正6年10月9日 | 大日本炭礦株式会社のため仝社の合併による採掘権の取得を登録 | ||
昭和15年2月28日 | 東京都麹町区麹町4丁目3番地の2菊池寛実のため採掘権の取得を登録する。 | ||
昭和15年5月31日 | 東京都中央区新川1丁目7番地高萩炭礦株式会社のため採掘権の取得を登録する。 | ||
第97号 | 大正9年6月23日 | 東京市京橋区浜町8番地茨城採炭株式会社のため鉱区分合により採掘権設定を登録する。 | |
大正14年11月2日 | 東京市麹町区永楽町2丁目1番地磐城炭礦株式会社のため採掘権の取得を登録する。 | ||
昭和15年2月26日 | 東京都麹町区麹町4丁目3番の2菊池寛実のため採掘権の取得を登録する。 | ||
昭和15年5月31日 | 東京都中央区新川1丁目7番地高萩炭礦株式会社のため取得を登録する。 | ||
第117号 | 昭和9年5月21日 | 東京市麹町区丸の内1丁目6番地の1磐城炭礦株式会社のため鉱区分割による採掘権の設定を登録 | |
昭和9年6月9日 | 茨城県多賀郡松岡町大字上手綱字関口□700番地の2渡辺十一郎のため譲渡による採掘権の登録 | ||
昭和12年5月7日 | 茨城県多賀郡高萩町高萩、渡辺辰雄のため相続による採掘権の登録 | ||
昭和15年1月23日 | 東京市麹町区麹町4丁目3番地の2菊池寛実のため譲渡による採掘権の登録 | ||
昭和15年5月31日 | 東京都中央区新川1丁目7番地高萩炭礦株式会社のため譲渡による採掘権の登録 | ||
第118号 | 昭和9年5月21日 | 東京市麹町区丸の内1丁目6番地の1磐城炭礦株式会社のため鉱区分割による採掘権の登録 | |
昭和15年2月26日 | 東京市麹町区麹町4丁目3番地の2菊池寛実のため譲渡による採掘権の登録 | ||
昭和15年5月31日 | 東京都中央区新川1丁目7番地高萩炭礦株式会社のため譲渡による採掘権の登録 | ||
第167号 | 昭和22年9月9日 | 東京都中央区新川1丁目7番地高萩炭礦株式会社のため鉱区分割による採掘権の設定を登録する。(第105号より) | |
第294号 | 昭和19年4月20日 | 東京都中央区銀座東5丁目4番地常磐炭礦株式会社のため会社合併による採掘権取得を登録 | |
昭和35年10月17日 | 東京都中央区新川1丁目7番地高萩炭礦株式会社のため譲渡による採掘権の取得を登録する。 |
ロ.租鉱権及び□□□ なし
ハ.開坑の沿革及び操業の概況
昭和15年5月7日会社創立、秋山坑、北方坑、手綱坑を大日本炭礦より、千代田坑、関口坑を磐城炭礦より買収し、この五斜坑により、浅部区域を採掘、前経営者による本層採掘跡の二次採掘を実施して来たが採掘個所が深部移行に伴い、合理的な集約採炭を計画して人員、資材を集中し昭和22年10月高萩坑を開坑、昭和26年5月出炭を開始するに至り、従来の五坑口を廃止、高萩坑に集約、以来昭和31年中央斜坑区域の採炭開始、38年終了(二次採掘区域)昭和38年より地山区域の下部斜坑採掘を開始、現在に至つている。
5.隣接鉱区
(略図参照)
北は常磐炭礦(113号)に接し南は向洋炭礦(第82号)、東は宇部興産(第153号)と隣接している。
6.地質、地形、炭層
本鉱区内は大部分が山岳、丘陵地帯であり山間を縫つて県道高萩ー徳田線が鉱区略々中央部を東西に、高萩ー大子線が鉱区南端部(一部分)に、日立ー勿来線が鉱区西端部に在る。 又、河川は関根川本流及び前川(関根川支流、川畑にて合流)が鉱区中央部に流れており、この道路および河川の沿線に上手綱(川隅、千代田、関口)、北方、和野等の部落と農地が発達している。その他鉄道等採掘制限を受ける地上物件はない。
鉱区内の基磐は花崗岩であつて、下部より新生第三紀層に属する石城砂岩層、浅貝砂岩層、白坂頁岩層が夫々不整合に堆積し、その上部に多賀統が不整合に重なり更に第四紀層が被覆している。 主な断層は□木断層(落差115m)猫内断層(落差15メートル)が夫々南北の鉱区境界□□にあり、その鉱区内に数本の断層が上部は傾斜向き、深部は走向向きに出没している。
炭層は白水統の石城砂岩層中に介在しており下位より本層(2.40ⅿ)上層(2.41ⅿ)五番層(2.58ⅿ)あり、走向南北、傾斜東方に13〜14°の極めて安定した準斜構造で、鉱区全域に賦存し層厚、炭質の地域的変化は殆どない。
7.炭層の状況
(計算対象層)
炭層名 | 層間隔 | 既、末 稼行別 |
現在の 坑口名 |
隣接の稼 行炭層名 |
上下磐の状況 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|
五番層 | 20ⅿ 〜26ⅿ |
未 | 高萩坑 | 上下磐共頁岩 比較的軟弱で採掘時に崩落し易い |
非粘着 | |
上層 | 20ⅿ 〜26ⅿ |
既 | 〃 | 上層 向洋・常磐 |
上磐砂岩 比較的硬く剥離しやすい 下層頁岩 脆弱 水なし |
〃 |
本層 | 0.7ⅿ 〜0.8ⅿ |
既 | 〃 | 本層 向洋・常磐 |
上下磐とも頁岩 上層やや脆弱、水分なし 下層よりやや湧水あり |
〃 |
8.炭質
炭層別工業分析
発熱量 | 水分 | 灰分 | 揮発分 | 固定炭素 | 硫黄 | |
---|---|---|---|---|---|---|
上層 | 4,380 | 14.5 | 24.5 | 33.9 | 27.1 | 0.4 |
下層 | 4,520 | 14.7 | 22.2 | 34.8 | 28.3 | 0.4 |
五層 | 3,000 | 11.5 | 45.0 | 24.0 | 19.5 | 0.4 |
[単位について記載はないが、発熱量はkcal/kg、水分・灰分・揮発分・固定炭素・硫黄分は%]
銘柄別生産数量・銘柄別生産比率
銘柄 | 生産数量 | 生産比率 | 発熱量 | 灰分 | 用途 | 主なる販売先 |
---|---|---|---|---|---|---|
高萩炭 | 5,485 | 2.8 | 5,100 | 14.0 | 暖厨房 | 特約店 |
洗中塊 | 17,380 | 89 | 5,100 | 14.0 | 〃 | 〃 |
上中塊 | 11,182 | 5.7 | 4,600 | 21.0 | 〃 | 〃 |
並中塊 | 12,260 | 5.3 | 4,000 | 30.0 | 〃 | 〃 |
特洗粉 | 95,852 | 49.0 | 5,100 | 14.0 | ボイラー | 常磐共同火力(株) 東京電力(株) 日本加工紙(株) 横浜ゴム |
上粉 | 17,785 | 9.1 | 4,700 | 21.0 | 〃 | |
洗粉 | 37,586 | 19.2 | 4,200 | 27.0 | 〃 | |
格内炭計 | 195,530 | 100.0 | 4,810 | 18.0 | ||
格外再洗粉 | 15,547 |
塊炭率 22.7%
精炭歩留 格内67% 格外5.3%
選炭方式 空気動ジグに依る水選
9.開坑
坑 名 | 旧現有別 | 開坑年月日 | 閉鎖年月日 | 稼行炭層 |
---|---|---|---|---|
秋山坑 | 旧 | 大日本炭礦より買収 | S26.4 | 上層・上層 |
北方坑 | 〃 | 〃 | S24.3 | 〃 |
手綱坑 | 〃 | 〃 | S27.3 | 〃 |
千代田人道坑 | 〃 | 常磐炭礦より買収 | S27.8 | 〃 |
〃 新斜坑 | 〃 | S18.5 | S27.8 | 〃 |
関口坑 | 〃 | 磐城炭礦より買収 | S24.10 | 〃 |
高萩坑 | 現 | S26.3 | 〃 |
10.現稼行坑
イ.坑口名 高萩坑
ロ.坑口より最遠採炭場までの距離 4,000m
ハ.炭層の走向、傾斜 走向は略南北、傾斜東方に13°の単傾斜
ニ.坑口標高 L+76m
ホ.層別既採最深度および現在の稼行深度
掘進ケ所の最深部(下部本卸引立 S.L −454ⅿ)
沿層稼行□□部(左三方 S.L −370ⅿ)
現在の稼行切羽(左二方 S.L −342ⅿ)
11.採 炭
イ.採炭方式
稼行炭層は総山丈5.5〜6.0ⅿの□□であるが、これを本層(2.48ⅿ)、上層(2.41ⅿ)の二群に分け、退却式上段先行、二段追掛払を採用し、採炭機はダブルジブカツターを用い、エアードリルでさく孔、発破ピツクの併用である
ロ.片磐間隔及び切羽長
片磐間隔 150〜180ⅿ 切羽面長 120〜150ⅿ
ハ.支 柱
切羽支保は鉄柱(□□鉄柱)カツペ(1.4ⅿ 軽量カツペ)
ニ.上下層の性質
上層 上下磐共頁岩 上磐は硬くて剥離し易く、下磐は脆弱不良
本層 上下磐共頁岩 上磐は脆弱不良、下磐は若干湧水あり
ホ.切羽能率
採炭夫能率 7.3t/人 切羽能率 6.0t/人
12.坑内外運搬
イ.坑内運搬(運搬系統図参照)
片磐及び下部斜坑を夫々750w、900wのベルトコンベヤーにて運搬、200m3ポケットをクッションとし、上部は炭車運搬を行なつている(2,300t/日)
[運搬系統図]
ロ.坑外運搬
選炭ポケットより専用線貨車輸送により常磐線高萩駅へ
距離5.5km 輸送能力 30,000t/月
13.坑内ガス
(通気系統図参照)
通気方式は対□式で高萩坑本、連卸を入気とし排気斜坑より排気する。本卸、連卸よりの入気は、中央斜坑〜下部斜坑方向に送られ、片磐および切羽を通り□風道より各連卸を経て排気斜坑より排気する。 可燃性ガスの発生は極めて少なく乙種
主要扇風機は
300kw軸流型 水柱300mm 4,000m3/min(41年8月設備)
14.坑内湧水
排水量 平時 8.9m3/min
最大 10.0m3/min
主要ポンプ種類及び台数
種 類 | kw | 台数 |
---|---|---|
多段タービン | 450 | 2 |
〃 | 300 | 3 |
〃 | 150 | 3 |
〃 | 110 | 2 |
出水指定 (下部斜坑全域)
15.原単位表
37 | 38 | 39 | 40 | 41 | |
---|---|---|---|---|---|
坑木(m3) | 0.039 | 0.029 | 0.027 | 0.037 | 0.035 |
火薬(kg) | 0.31 | 0.29 | 0.27 | 0.33 | 0.30 |
坑枠(kg) | 3.63 | 4.61 | 3.19 | 4.26 | 3.41 |
□材(kg) | 1.11 | 0.52 | 0.32 | 0.20 | 1.12 |
電力(Kwh) | 87.69 | 89.02 | 91.77 | 123.63 | 132.32 |