史料 重内炭礦資料
1969年(昭和44)10月30日、重内炭礦(株)が経営する重内炭礦(北茨城市磯原)は閉山する。炭礦閉山促進のために設けられた国の整理促進交付金による閉山であった。茨城地区で残る炭礦は、茨城炭鉱(常磐炭礦中郷坑)、神の山炭礦、櫛形炭礦の3礦となった。
本史料は閉山が決定し、交付金申請が10月9日になされ、その申請の過程で作成されたものと考えられる。
参考文献
- 炭礦の社会史研究会編『新聞記事にみる茨城地域の炭鉱と社会 昭和編3』(2006年)pp.255-258
- 炭礦の社会史研究会編『聞きがたり 茨城の炭礦に生きた人たち』(1990年)
- 炭礦の社会史研究会編『聞きがたり 続茨城の炭礦に生きた人たち』(2015年)
史料目次
- 炭鉱の位置交通並に輸送関係
- 生産数量、労務者、能率、品位
- 交付金申請にいたった経緯
- 鉱区および開坑の沿革
- 隣接鉱区
- 地形、地質、炭層
- 炭層の状況
- 炭質
- 開坑
- 現稼行坑
- 採炭
- 坑内外運搬
- 坑内ガス
- 坑内湧水
- 原単価
史料について
- ◦作成時期:1969年(昭和44)10月30日。史料表紙に作成時期が記されている。
- ◦作成者:重内炭礦株式会社
- ◦形態:B5判。本文6ページ、図一葉。横書き、手書き
[本文]
重内炭礦資料
1.炭鉱の位置交通並に輸送関係
当礦は常磐線磯原駅の西北約4kmの位置にあり、附近一帯は丘陵地で三方山に囲まれ、木皿川上流に位置している。
磯原駅からバスの便があり、約15分にて到着する。又磯原駅から当礦までは鉄道専用側線があり専ら石炭の輸送をなす。
2.生産数量、労務者、能率、品位
- [単位について 史料に単位が示されていないが、生産数量はトン、実働労務者数は人、能率はトン(実働労働者一人あたり一ヶ月の出炭量)、品位はkcal]
年度別 | 生産数量 | 実働労 務者数 |
能率 | 品位 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
本卸 | 連卸 | 其の他坑 | 計 | ||||
昭和14 | 61,674 | 61,674 | 391 | 13.1 | 4,340 | ||
15 | 72,348 | 72,348 | 475 | 12.7 | 4,320 | ||
16 | 29,435 | 45,100 | 74,535 | 511 | 12.2 | 4,350 | |
17 | 40,399 | 51,996 | 92,395 | 517 | 14.9 | 4,350 | |
18 | 29,721 | 60,245 | 89,966 | 543 | 13.8 | 4,360 | |
19 | 24,223 | 41,563 | 65,786 | 664 | 8.3 | 4,310 | |
20 | 8,588 | 20,315 | 28,903 | 634 | 3.8 | 4,350 | |
21 | 11,785 | 33,237 | 45,022 | 611 | 6.1 | 4,320 | |
22 | 12,065 | 38,627 | 50,692 | 653 | 6.5 | 4,300 | |
23 | 12,281 | 40,821 | 53,102 | 697(73) | 6.3 | 4,300 | |
24 | 12,102 | 38,084 | 50,186 | 679(11) | 6.2 | 4,650 | |
25 | 12,085 | 37,821 | 49,906 | 629 | 6.6 | 4,710 | |
26 | 30,206 | 39,643 | 69,849 | 624 | 9.3 | 4,430 | |
27 | 24,404 | 45,406 | 69,810 | 651 | 8.9 | 4,480 | |
28 | 24,965 | 40,827 | 65,792 | 585 | 9.4 | 4,640 | |
29 | 27,027 | 33,903 | 60,930 | 547 | 9.3 | 4,610 | |
30 | 37,107 | 27,443 | 64,550 | 561 | 9.6 | 4,760 | |
31 | 46,107 | 34,078 | 80,185 | 610 | 11.0 | 4,730 | |
32 | 44,381 | 29,804 | 74,185 | 635 | 9.7 | 4,620 | |
33 | 35,022 | 42,396 | 77,418 | 671 | 9.6 | 4,650 | |
34 | 43,784 | 57,738 | 101,522 | 609 | 13.9 | 4,500 | |
35 | 51,892 | 72,584 | 124,476 | 495(68) | 21.0 | 4,550 | |
36 | 53,317 | 12,004 | 29,381 | 94,702 | 492(66) | 16.0 | 4,620 |
37 | 108,661 | 108,661 | 633(76) | 14.3 | 4,550 | ||
38 | 158,660 | 158,660 | 553(10) | 23.9 | 4,500 | ||
39 | 121,991 | 121,991 | 460(9) | 22.1 | 4,550 | ||
40 | 141,955 | 141,955 | 427(15) | 27.7 | 4,550 | ||
41 | 149,093 | 149,093 | 403(13) | 30.8 | 4,400 | ||
42 | 191,100 | 191,100 | 375(10) | 42.5 | 4,330 | ||
43 | 180,240 | 180,240 | 342(2) | 43.9 | 4,280 | ||
44 | 67,511 | 67,511 | 353(0) | 31.9 | 4,130 | ||
計 | 1,172,528 | 569,583 | 995,034 | 2,737,145 | 17,030 | 13.4 | 4,470 |
3.交付金申請にいたった経緯
昭和42年8月19日付通商産業大臣の認定を受けた再建整備計画に基き、第1期採掘区域(右電卸方部)の採算経営と第2期採掘区域(下山下断層と以東区域)えの急速掘進を併行し、鋭意進行せしめたが、昭和44年2月以降右電卸右7坑払の稼行条件悪化に加え、採炭員の補充難に悩み、出炭は前年実績月平均15,000トンに対し11,000トン〜12,000トンに止まり、又次期払である左5坑も下山下断層の影響と払内に不測の断層出現等稼行条件不良が見込まれるに至ったため、東斜坑の急速展開を図るため(10月〜11月切羽完成を目標とす)掘進工事を促進した。然るに右電卸方部の斜坑及び坑道の狭小化、東斜坑方部の下山下断層附近の破砕帯等に掘進員を仕繰員に転用せざるをえず、掘進員増員したにもかかわらず実質戦力低下のやむなきに至った。8月に左5坑払に移転したが上記の理由と天磐が含水砂岩層の為切羽進行も難渋を極め且つ歩留低下に悩まされ、8月の出炭は6,310トンとなり、損益面で決定的な打撃を受けた。
又当礦の炭質は軟かく(フライアビリティー36%)、塊炭率は8%〜10%と悪く、平均販売価格は2,200円/トンと低く、近年労務費の上昇、物品費の年々上昇により生産原価(山元)は44年1月〜6月平均3,500円/トンとなり、赤字の累積、加えて東斜坑方部の展開に要する資金5000万円を考え合せ、採算上、又労務者の充足に望み薄となったため、稼行不能と判断し、交付金申請に至ったものである。
4.鉱区および開坑の沿革
明治26年坂市太郎により鉱区出願し、明治34年9月茨城採炭株式会社を創立し操業に入る。その後大正14年9月磐城炭礦株式会社に合併され、昭和5年まで直営にて経営したが、丁度不況時代に入り大炭鉱方式の経営は行き詰まり赤字が累積したため時の鉱業所長筒井唯一に斤先掘りをやらせた。筒井は一山一家方式の小炭鉱方式に改善し、山元に家族と共に住み、部下と苦楽を共にしつつ挽回を計り、遂に黒字経営とす。次いで昭和14年6月現重内鉱業株式会社に譲渡さる。昭和35年10月茨採登第296号鉱区を取得し現在に至っている。
茨採登第296号鉱区には常磐炭礦株式会社の石油、天然ガスの試掘権登録第4130号同第4297号が重複しておる。現重内鉱業株式会社になってより、第5斜坑(現連卸)を昭和15年6月開坑し、又昭和34年12月本卸を開坑し合理化工事に着手す。
昭和37年10月北斜坑、南斜坑の2方部を連絡し揚炭斜坑を本卸の1坑口とす。その後着々合理化工事を推進し、昭和39年5月1坑口、1斜坑、1片磐、1払の完全集約がなされた。昭和43年4月深部(第2期採掘区域)開発工事に着手し現在に至る。
5.隣接鉱区
【図】[図は略]
6.地質、地形、炭層
当礦鉱区は丘陵地と耕地内にあり、鉄道及び市街地はなく、村落程度の部落が散存している。河川および道路は県管掌のはなのぞの川、大北川、勿来線がある。学校は2校、橋梁(永久橋)1、送電線鉄塔などが散在している。
鉱区の中央南北に石城砂岩層が走り、その周囲は第4紀層にて形成されている。鉱区の西部には西落ち38Mの山口断層があり、東部には西落ち75Мの下山下断層がある。走向はほぼ南北で基盤の変化はない。夾炭層は第3紀に属し、上部より一番層、二番層、三番層、四番層、上部上層、上層、中層、本層の8層で、現在稼行対象炭層は上層、中層、本層の3層である。炭層は約14°東に傾斜している単斜構造で、上層と中層の間隔は約10ⅿ、中層と本層の間隔は10㎝から20㎝であり、上層山丈1.95ⅿ、炭丈1.52ⅿ、中層山丈1.27ⅿ、炭丈1.20ⅿ、本層山丈1.01ⅿ、炭丈0.99ⅿである。
7.炭層の状況
炭層名 | 層間隔 (m) |
既末稼行別 | 現在の 坑口名 |
隣接の稼 行炭鉱名 |
上下盤の状況 |
---|---|---|---|---|---|
上より 2番層 |
未 | 中央坑本卸 | 茨城炭礦 | 上盤 砂岩 下盤 頁岩 良好 | |
3番層 | 13〜20 | 一部既 | 〃 | 〃 | 上下盤 砂岩 良好 |
4番層 | 40〜43 | 未 | 〃 | 〃 | 上盤 砂岩 下盤 頁岩 良好 |
5番層 | 9〜15 | 未 | 〃 | 〃 | 上下盤 砂岩 良好 |
6番層 | 50〜80 | 未 | 〃 | 〃 | 上盤 砂岩 下盤 頁岩 良好 |
上部上層 | 65〜80 | 一部既 | 〃 | 〃 | 上盤 砂岩 下盤 頁岩 稍良好 |
上層 | 0.8〜4 | 既 | 〃 | 〃 | 上下盤 頁岩 稍良好 |
中層 | 8〜10 | 既 | 〃 | 〃 | 上下盤 頁岩 稍良好 |
本層 | 0.1〜0.2 | 既 | 〃 | 〃 | 上下盤 頁岩 稍良好 |
8.炭質
(イ)炭層別工業分析
層別 | 発熱量 kcal/kg |
水分 (%) |
灰分 (%) |
揮発分 (%) |
硫黄分 (%) |
固定炭素 (%) |
比重 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
上層 | 3,220 | 10.94 | 41.85 | 25.27 | 0.48 | 21.94 | 1.65 |
中層・本層 | 3,031 | 11.47 | 35.57 | 27.32 | 0.61 | 25.65 | 1.58 |
(ロ)銘柄別生産数量(最近1ヶ年)銘柄別生産比率・保証品位・用途・主なる販売先
銘柄 | 生産数量 (t) |
生産比率 (%) |
保証品位 | 用途 | 主なる販売先 | |
---|---|---|---|---|---|---|
発熱量 | 灰分 | 特塊 | 331 | 0.2 | 5,200 | 14 | 暖房用 | 戸部商事 |
特洗中塊 | 6,802 | 4.3 | 5,100 | 15 | 〃 | 〃 |
洗中塊 | 609 | 0.4 | 4,800 | 18 | 〃 | 〃 |
上中塊 | 6,302 | 4.0 | 4,000 | 31 | 〃 | 〃 |
二号中塊 | 63,006 | 1.9 | 3,700 | 35 | 〃 | 〃 |
特洗粉 | 41,347 | 26.0 | 5,100 | 15 | 発電所・製紙 | 常磐共同火力 〃 |
上洗粉 | 5,487 | 3.4 | 4,800 | 19 | 〃 製糸 | 〃 〃 |
洗粉炭 | 1,496 | 0.9 | 4,000 | 31 | 〃 | 〃 〃 |
火力粉 | 93,757 | 58.9 | 3,800 | 34 | 〃 | 〃 〃 |
三号粉 | 134 | 0 | 3,000 | 46 | 〃 | 〃 〃 |
計 | 159,271 | 100.0 | 4,270 | 27.6 |
(ハ)塊炭率 ………… 10.8:89.2
(ニ)精炭歩留り ……… 82.1%
(ホ)選炭方式
+75m/mをピッキングコンベヤーにて手選を実施し、−75m/mは主洗90t/Hバウム水洗機、再洗40t/Hバウム水洗機、参洗40t/Hピストンリング水洗機にてそれぞれの銘柄に選炭され、バケットエレベーター、ベルトコンベヤを経て各々のポケットに輸送される。
9.開坑
坑名 | 旧現有別 | 開坑年月日 | 閉鎖年月日 | 稼行炭層 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
中央坑 本卸 | 現有 | 昭和34.12 | / | 上層・中層・ 本層 |
|
中央坑 連卸 | 〃 | 〃15.6 | / | 〃 | 旧5斜坑 |
〃 排気坑 | 〃 | 〃36.9.26 | / | 排水坑口 | |
旧俵坑排水坑 | 〃 | 〃37.12.25 | / | 排水専用坑道 | |
旧俵坑排気立坑 | 〃 | 〃37.12.25 | / | 排気坑 |
10.現稼行坑
坑口名 ……… 中央坑 本卸
坑口より最遠採炭場までの距離 ……… 2,660m
炭層の走向、傾斜 ……… N0°〜5°E
坑口標高 ……… +44.1m
層別既採最深度 | 上層 | −390m | 現在の稼行深度 | 上層 | |
中層 | −452m | 中層 | −444m | ||
本層 | −452m | 本層 | −444m |
11.採 炭
採炭方式 ……… 後退式長壁払 片盤間隔 ……… 10m〜20m 切羽長 ……… 面長80m〜120m 透截方式 ……… 発破、積込にMCE75ダブルジブカッター使用 支 保 ……… 鉄柱(摩擦)、カッペ(シュー) 切羽能率 ……… 10t/人/日〜12t/人/日 上、下盤の状況 ………上下盤共頁岩にて稍良好である。
12.坑内外運搬
揚炭坑口の坑外の主巻揚機は500HP複胴巻揚機を使用し、右電卸に150HP単胴巻揚機により運搬している。
片磐はベルトコンベヤ、ダブルチェーンコンベヤの併用で、切羽運搬機はダブルチェーンコンベヤを使用している。
入昇坑については第1人車300HP、第2人車168HPを設置してある。
13.坑内ガス
通気方式 ……… 中央式通気法 主要扇風機 ……… 三作製MFA180P2-G5B 1000rpm 3000m3/min 190KW 通気量 ……… 入気量 1,745m3/min 排気量 2,237m3/min ガス発生の有無 ……… 無 指定種別 ……… 部長指定乙種
14.坑内湧水
平時 ……… 1.83m3/min 最大 ……… 3.01m3/min 主要ポンプの種類及び台数 200HP 100cf 2台 150HP 70cf 5台 50HP 30CF 6台 出水指定 ……… 有
15.原単価
火薬 ……… 78円/t (186g/t) 坑木 ……… 294円/t (0.037m3/t) 電力 ……… 186円/t (52.9KWH/t)
運搬系統図
[略]